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 中国では13億人のうち農村人口が9億人といわれている。この厖大な人口が、豊かな都会を目掛けて一挙に流入したら都市機能が破綻してしまうという中国政府の懸念も理解できないわけではないが、国際的には非人道的という批判は絶えない。こうした批判も意識してか、一部に戸籍の移動を緩和する動きもある。

「しかしそれは、ある種のペテンですね」と上海在住の日本人商社マンは斬って捨てる。

「例えば上海市では“丸7年以上上海に居住、きちんと納税し、かつ高度な技術や能力を持っていれば、戸籍を取得できる”という新規定が定められましたが、それは申請出来る条件であって許可される条件ではないのです。仮に申請できたとしても、あとは役人の胸先三寸。それに、もともと農民工(出稼ぎ労働者)に、この条件をクリアできる者などほとんどいません。上海万博前“人権侵害”という海外の批判を躱(かわ)すための方便だったのです」

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約2億人の黒孩子(無国籍児)が出稼ぎ労働者に

 だから農家は、農作業や、苛酷な出稼ぎ労働に耐え、都会から現金を持って帰る体の丈夫な男の子を授かりたいと願うようになる。中国では79年から、人口抑制のため、“一人っ子政策”が取られているが(15年廃止、16年から二人っ子政策)、農村部では最初に女の子が生まれた場合には二子まで許される。そこで男の子が生まれればいいが、そうではなく次も女子の場合には戸籍に残さず黒孩子、いわゆる無戸籍にする。三子、四子が女の子の場合も同様だ。

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 また産児制限などが普及していない農村部などでは、第一子が男子なのに、次々と男の子が生まれる場合もある。彼らも黒孩子となるが、出稼ぎの場合、戸籍の有無など問われない。こうした黒孩子は、1億とも2億ともいうが、政府は正確な数字を把握していない。

 彼らは盲民と呼ばれ、経済開放の初期、最初の集団的な出稼ぎ労働者となって全国を流れ歩いたことから“盲流”と差別的な呼称で呼ばれもした。中国農村部に常にあきらめと絶望感が漂っているのは、こうした状況による。加えて都市住民よりも苛斂誅求というべき税制度と腐敗役人の跋扈が拍車をかけている。