森喜朗は首相までやりながら、「どんな実績があるか」ではなく「どんな失言をしてきたか」で語られる、たいへん稀有な政治家である。舌禍事件のたびに、過去の発言を振り返ることで森喜朗という人物像が再確認されている。それでもなお、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長になり、その座に居座り続けることができているのは、なぜだろうか。

2月4日「謝罪会見」を行った森喜朗東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会会長 ©AFLO

「全文は読んだらもっとひどかった」

「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」「(組織委員会にも女性はいるが)みんなわきまえておられる」――日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会で、森喜朗が40分におよんだスピーチのなかでそのように述べると、会場では出席者から「笑いが起きた」と報じられた。

 これに対してSNSでは、女性蔑視、自らオリンピックを中止に追い込もうとしている、どうせ発言の切り取りだろうと思ったが全文を読んだらもっとひどかった、誰もその場で咎めないのも問題だなどの感想があふれ、Twitterトレンド欄は森喜朗関連の話題一色となった。

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“楽しませようとして”の失言

 失言でいえば、森喜朗とならぶのが石原慎太郎である。石原慎太郎の場合、おおむね記者会見や囲み取材などで記者を相手に、世の中にむけてわざわざ発言している。それに対して森喜朗は、閉じられた会合の中で、その場にいる人たちを楽しませようとして発言しているのが特徴だ。

「森さんがここまでのし上がってきたのは、気配りと懐の大きさ。個別に話をすると極めて楽しい人で、与野党を問わずに慕われている」(永田町関係者 注1)。森喜朗は人を取り込むのが上手いらしい。くだんの臨時評議員会に出た人たちも、森ファンなんだろう。なにしろ40分もの長話につきあい、そのうえ笑い声をあげているくらいだ。

 五輪エンブレム問題のときも今回も、責任を問われると森喜朗は「無報酬でやっている」と不満を述べる。無報酬だから無責任でいいとはならないだろうが、森喜朗はそう考える人なのだ。なお過去のインタビューでは、日当が出ており、「日当は手をつけず組織委のメンバー全員の盆と暮れの打ち上げ代に貯めてるんです」(注2)と述べている。森流のオモテナシだ。