日本の原発は、熱せられた水蒸気でタービンを回して発電したあとの復水を冷やすため、海水が使用される。冷却水として使われた海水は海に戻すのだが、そのために原発は海沿いに建てられている。その福島第二原発の港湾内にたまった土砂を処理する必要があり、水谷建設が浚渫(しゅんせつ)する事業を担った。東電の元請けは前田建設だったが、いつものように水谷がその下請けとして浚渫し、その残土を他に利用しようとしたのである。
法外な利益
水谷建設が、発電所から40キロ北の県内の小高町(現・南相馬市)へ新たに「小高研修センター」を建設し、その土台づくりの盛り土として、60万立方メートルの残土を発電所から運び出す―。水谷功がそんな残土処理計画を東電側に提案したのである。
実際、東電は水谷の計画に乗り、元請けの前田建設を通じ、水谷側へ残土処理事業を発注する形をとった。
東電からいったん前田建設へ残土処理事業が発注され、前田が数億円の手数料を得る。水谷建設が請け負った事業の受注額は、およそ60億円にのぼった。残土処理にしては法外な利益だ。
マルサによる捜査
そして、ここに名古屋国税局が目をつけた。名古屋国税局は水谷建設のある三重県桑名市を所管している。単なる税務署とは異なり、東京国税局と同様、マルサと呼ばれる査察部門がある。捜査能力は高い。その名古屋国税局が、東電から発注された60億円の残土処理事業について、少なくとも2億4千万円分について水増しされた利益とみた。それを所得隠しと認定したのである。
もっとも事件は単なるゼネコンの脱税ではない。問題は、水増し発注により捻出されたリベートの支払い先だった。それが白川司郎の経営していた日安建設だ。水谷功は日安建設に土砂の運搬事業の契約を結んだ。その契約に基づき、2002年8月期までの2年間、水谷側が白川側に3億5千万円を支払っていた。
しかし、実際には日安建設が残土を運搬した痕跡がない。つまり運搬は形式的な契約上に過ぎない架空の事業であり、他の業者が運んでいたのだろう。結果、名古屋国税局は水谷が日安建設に払った3億5千万円のうち、2億4千万円を水増し分と指摘した。工事に関わった前出の水谷建設関係者が明かす。
「日安建設には、土砂を運ぶダンプカーすらなかったのではないでしょうか。国税局の調査官は、福島県まで足を運び、ダンプカーのナンバーを逐一確認していましたから、それもつかんでいたはず。ナンバーからダンプカーの所有者を割り出し、それらが日安建設のものではないと……。そうした捜査の結果、日安には仕事の実態がないと判断されたのです」