原発利権にメスを入れる国税局
捜査当局は、日安建設を事実上、資金の流れを誤魔化すためのトンネル会社と見たに違いない。なにしろ「最後のフィクサー」と呼ばれる白川司郎絡みの話である。捜査には力が入った。
「国税当局が原子力発電という国家プロジェクトに潜む利権にメスを入れた─。狙いは亀井静香か」
東京地検をはじめとした捜査関係者たちは、事件に色めき立った。
国税局の調べによると、日安建設は単なる土砂の運搬だけでなく、水谷建設から塩分を含む土砂の土質改良事業を請け負っていたという。日安側がそれを改めて7千万円で日起建設という会社に外注していることまで判明した。日起建設は水谷建設との資本関係こそないが、水谷功がオーナーとして運営してきた建設会社である。小沢一郎事務所への裏献金受け渡し現場に立ち会ったとされるダイナマイト業者が出入りしていた長良通商と似たような存在といえる(編集部注:長良通商も水谷功が事実上のオーナーとして経営していた)。
事業資金の流れを整理してみる。東電からおよそ60億円が水谷建設に渡り、そこから実際の事業費を除いた差額が、日安建設などに振り向けられた。さらにその日安建設から水谷建設の関連企業にさらに資金が流れている。発注行為を繰り返すことによって、わかりづらくする資金操作の一環だろう。現に国税当局もそう見て追及した。
しかも水谷建設からのリベートは白川側に渡っただけではない。もう一つのルートとして雑誌『月刊官界』などを発行していた「行政問題研究所」が注目された。会社の所在地は東京都内としていたが、社長は『財界ふくしま』という雑誌を発行してきた竹内陽一という人物で、福島県出身だ。福島県内の建設業者のあいだでは知られた存在だった。
そして名古屋国税局はこの「行政問題研究所」へ1億2千万円のリベートが渡っている事実をつかんだ。コンサルタント料名目で水谷からここへ支出されていた。が、これもまた実態がない。名古屋国税局は全額を所得隠しとして行政問題研究所に追徴課税した。
捜査員の直感
実はこの竹内は東電の株主でもあった。原発の運転停止をめぐり、福島県知事の佐藤と対立してきた人物である。すると、リベートは東電側から依頼された何らかの工作資金ではないか、そう睨んだ捜査関係者も少なくなかった。それほど事件に登場する人物たちは、東電とのつながりが深かったといえる。原発にからんだ利権が事件の背景にある。それが捜査員たちの直感だった。
ところが、肝心の捜査は進まなかった。原発利権の解明どころか、一度は、世の中から忘れられかけたほどだ。そして、名古屋国税局の税務調査からおよそ2年半後、捜査は意外な形で再開される。