執拗な検察官の質問に逆ギレしたように…
その前までは、他の共犯者の法廷に呼び出されても、ぼそぼそとした口調ながら、事件についての証言はしていた。わずか1~2回ほどのことだったが、教祖の法廷に呼ばれたことを契機に、もうどこの法廷でも何も語らなくなったのも事実だった。
検察の“裏切り”を、取調中の口約束から強調して、捜査の違法性を指摘したかったのだろう。
警察官からの暴行の事実と、不本意な供述調書が作成されたことを語ったあと、検察側からの反対尋問がはじまる。検察としては、被告人の訴追が危ぶまれるどころか、社会的信用・信頼、沽券に関わる問題だから、こと細かく、それでいてネチネチと問い質さないわけにはいかない。
ところが、そうした検察の質問に、次第に横山が耐えられなくなり、執拗な検察官の質問に逆ギレしたように不貞腐れていく。
「だから! 最初の言葉はハッキリ覚えてない! そう言ってるわけだから」
「だから! それはあとでチャンと言います」
子どもが、拗ねているような言い方に変わっていく。そして、しまいには検察官の質問に黙って答えなくなった。
それを見かねた弁護士が「ちょっと、いいですか」と、被告人のそばに近寄り、耳元で声をかけて翻意する。
そうして、気を取り直したように、質問には答えるのだが、また2つ3つ検察官の尋問が進むと、黙り込んでしまう。
状況を見かねた裁判長が「弁護人に聞いてもらっては」と、検察官の質問を弁護人に委ねて、被告人を優しく諭すようにしては答えを導いていくようになった。
それでも、その弁護人の質問にすら程なくして黙り込むようになってしまった。
「どうしたんですかねぇ……」
さすがに裁判長も拗ねた子どもを見守るような声で、本音を漏らす。
「被告人、こちらに戻りなさい。弁護人とよく相談しなさい」