もはや裁判長の言葉も届かなかった
証言台の横山を弁護士の前の席に戻して、弁護人と話して心を落ち着けるように促す。
それから、話をした弁護人が保護者のように説明する。
「あの、検察官には不信感を持っていて、質問の聞き方にカチンとくることがあったようで、質問の仕方を考えて欲しいんですが……」
「そうすると、答える意思がないワケではないんですね」
裁判長が確認の声を上げた。
すると、何を思ったか、横山がこれに答えた。
「今日は、もう、答えたくありません!」
呆れたように裁判長が言う。
「せっかく、2期日続けて取り調べのことを聞いてきて、検察官にも反対尋問の権利があるわけですから。このままでは、裁判所も中途半端な気持ちになってしまいますよ」
反対尋問権が行使されなかった証拠は採用できない。まして、弁護人の主尋問を通して自分に有利になることばかりを言わせておきながら、不利になる検察側の尋問に答えないとあっては、信憑性も疑いたくなる。「中途半端な気持ち」とは、被告人にとっても不利なことになってしまいますよ、と裁判所が気を使って示唆して言ったのだ。
ところが、もはや裁判長の言葉も横山には届かなかった。まるで裁判長の気遣いを無視するように、検察官を正面に睨み付けて、
「尊師の法廷には呼ばないと言うから、協力してきたのに!」
吐き捨てるように言った。
「ここは、あなたの裁判だから……」
裁判長が、落ち着かせて考え直させようと言ったところで、もはや横山は止めようがなかった。
「だって、最初の検事さんはまわりにちゃんと言っておくって、言ったんですよ! 次に引き継ぐ検事も、同じ釜のメシを食った仲だから、ちゃんと通じるって! その次に来た検事さんにも協力しようと思ったのに!」
その言いっぷりは、明らかな子どもだった。とても40歳手前の頭の禿げかけた大人には見えなかった。
「休廷でもしますか?」