もう1つは国際競技連盟の事務局へのスタッフ派遣だ。国際競技連盟の意思決定も、BリーグやJリーグと同じように理事会が最終決議の場所になる。その前段階として専門の委員会で話し合われるのだが、決議事項を実務として動かしていくのは事務局だ。ここに集まる情報は委員会よりも全般的で、その濃度も濃い。会長や理事はもちろん欲しいポストだが、事務局に人材を送り込むことで入手可能な情報は多いと言える。
上位団体へ日本人を送り込むことの意義
国際競技連盟へ人材を送り込むべきだとの思いは、東京オリンピックのマラソン競技のコース変更問題でさらに強まった。
東京から札幌への変更は突然で、一方的に映った。変更はIOCのジョン・コーツ調整委員会委員長、東京2020組織委員会の森喜朗会長(編集部注:当時)、東京都の小池百合子知事、東京2020オリンピック・パラリンピックの橋本聖子担当大臣による四者協議で正式決定したが、その前段階としてIOCのトーマス・バッハ会長が「日本の組織委員会との協議の結果、マラソンと競歩の会場を札幌へ変更する」と発言した。
バッハ会長を札幌への変更へ駆り立てたのは、2019年9月の世界陸上だったと見られている。マラソンは深夜11時59分にスタートしたが、女子では68人の出場選手のうち28人が途中棄権した。高温多湿の気象条件が影響したもので、東京オリンピックのマラソンは男子、女子ともに午前6時スタートとなっているが、それでも暑さに不安が残るというのがバッハ会長の見解だった。
とはいえ、会長が独断で変更を決められるはずもない。周囲に相談したはずだ。そのなかにはWF(ワールドアスレティックス/国際陸連)のセバスチャン・コー会長が含まれており、彼が札幌への変更を進言したと報道は伝えている。
関係性を築くことの重要性
ここで問われるのは、WFと日本陸上競技連盟(日本陸連)の関係だ。WFと密接な関係を築いていれば、セバスチャン・コー会長は「IOCは札幌へ移転したいと言っているけど、日本陸連はどう思う?」と聞いてくるはずだ。おそらくはそのような強いパイプを持っていなかったことが、日本陸連にとって致命的だったと私は見ている。
日本陸連内部のガバナンスも効いていなかった。