しかし、曲線や勾配などは、将来、時速300km以上を出せるように作ってある。正面から時速300km以上の設備として設計しても国は認めてくれない。だからそのスペックを隠して作っている。土木設計の現場の方が一枚上手で、国の担当者も当初の仕様を逸脱しなければ気づかないし、察知しても文句は言えない。
騒音問題を解消してスピードアップを実現
例えば九州新幹線のある区間は、当初は長いなだらかな勾配として作られる予定だった。しかし、設計図では一部水平な区間を設置している。国から指摘されたけれども、「そこは有力代議士のお膝元で、あとから駅を作れと言ってくるはずだ。その時になって作り直すわけにはいかない」と説得した。案の定、その場所には駅ができている。
整備新幹線の設計速度を決めている要素は、「時速260kmで75ホン以下」である。ほぼ騒音レベルだけの問題で、軌道のスペックはもっと高い。ならば「75ホン以下になるべく改修すればスピードアップできる。その改修費用はJRが負担しましょう」となった。
2019年5月、JR北海道は北海道新幹線建設中の新函館北斗~札幌間にて「時速320kmで走行可能とする工事を自己負担したい」と国に要請した。工事内容は「防音壁の嵩上げ約30km」「防音壁重量増にともなう高架橋の補強」「トンネル約30カ所で緩衝工延長」だ。
トンネル緩衝工はトンネルの入口に作られるドーム状の防音壁だ。高速な列車がトンネルに入るとき、トンネル内の空気が反対側に押し出されて衝撃波を出す。空気鉄砲のような現象だ。その衝撃波をトンネル緩衝工が分散させる。
JR東日本も2020年10月に「盛岡~新青森間を時速260kmから時速320kmに対応する工事」に着手した。「約1.3kmに吸音板を追加設置」「約3.6kmに防音壁嵩上げ」「約24カ所のトンネル緩衝工延伸」となっている。工事完成は2027年の予定だ。
北陸新幹線や九州新幹線も同様の追加加工を実施すれば、スピードアップできる。だからといって初めから時速300kmの仕様では作れない。国は「時刻260km、75ホン以下」の仕様で許可しますよ、これ以上の性能にしたかったらJRが差分の工事をやりなさいと。これからもこの流れになっていくだろう。