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連載この鉄道がすごい

秋田・山形新幹線の高速化で切り札か 奥羽山脈をぶち抜く「新トンネル」構想とは

狙いは所要時間短縮だけではなく……

2021/02/25

genre : ビジネス, 企業

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 東北新幹線の最高速度は上野~大宮間が時速130kmに格上げされる。大宮~宇都宮間は時速275km、宇都宮~盛岡間が時速320km、盛岡~新青森間が時速260kmだ。大宮~盛岡間は国鉄が建設してJR東日本が引き継いだ部分だから、時速260kmの縛りはない。「75ホン対策」を遵守したうえでスピードアップしている。

「こまち」は新トンネル構想

秋田新幹線「こまち」(筆者撮影)

 秋田新幹線「こまち」のE6系電車は、東北新幹線の時速320km対応区間を走る。盛岡~秋田間は在来線の田沢湖線・奥羽本線に直通する区間だから速度が下がる。この在来線区間もスピードアップの動きがある。「秋田新幹線トンネル整備構想」だ。田沢湖線の赤渕~田沢湖間に新たなトンネルを掘る。同区間は岩手県と秋田県の県境で奥羽山脈を横断する。谷間を縫う急勾配でカーブもある。この区間だけでもトンネル1本で直行できれば所要時間を約7分短縮できる。建設コストは約700億円と見積もられている。

秋田新幹線(田沢湖線区間)のトンネル構想(秋田県資料より

 約7分の短縮のために700億円は高すぎると思うかもしれない。しかし、このトンネルの真の狙いは自然災害対策だ。この区間の豪雨、豪雪、強風のため、「こまち」は遅延や運休が発生しやすい。トンネルで険しい区間を回避すれば、遅延や運休が減る。定時性が高まる。2018年に沿線自治体が「秋田新幹線防災対策トンネル整備促進期成同盟会」を設立し、国やJRへ要望活動を行っている。

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 JR東日本も前向きに検討中だ。「こまち」は「はやぶさ」と連結して東京駅に乗り入れるため、遅延すれば東北新幹線・北海道新幹線まで波及する。大宮~東京間は上越新幹線や北陸新幹線も乗り入れるから、「こまち」のダイヤ乱れはJR東日本の新幹線網全体に影響する。秋田で「こまち」に遅延が発生すると、金沢の「かがやき」が遅れるという状況も起きる。

「つばさ」も新トンネル計画がある

 山形新幹線「つばさ」のE3系電車も、東北新幹線の時速320km対応区間を走る。福島~山形~新庄間は奥羽本線に直通する。この途中の庭坂駅付近~関根駅付近にもトンネル構想がある。山形県が「山形新幹線機能強化検討委員会」を設置して計画をまとめた。

山形新幹線(奥羽本線)の板谷峠区間(赤枠)をトンネルで貫きたい(国土地理院地図を筆者加工)

 この区間も奥羽山脈越えで、板谷峠といえば鉄道の難所として知られていた。線路のほとんどは勾配区間で、駅は勾配の途中から分岐させて水平な場所に駅を作った。かつては、このようなスイッチバック駅が連続する区間だった。山形新幹線直通化工事で少しは改良されたとはいえ、難所に変わりはない。