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嗚咽とともに発せられた言葉

──たぶん、証人は普段から思っていることがあると思います。普段思っていることを、あなたの言葉でおっしゃってください。

「言われたとおり修行すれば、素晴らしい人間になれるなんて、そんなうまい話があるはずないだろうって……。人を殺したからって、いい人になれるなんて、そんないい話はないでしょ。社会は自分のことを認めてくれない、わかってくれない、こんなに素晴らしい人間なのに、ちっとも社会は認めてくれない……挙げ句の果てにサリンを撒いたのは、こんな人たちなんじゃないですか。殺されるのが怖かったなら、サリンなんて撒かないで、車に乗って逃げればよかったんじゃないですか!」

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──逃げればよかった、と?

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「当り前ですよ。自分が殺されるのが怖いからって、どうして人を殺すんですか?   何もしないで逃げればいいでしょ!」

 そして検察官が、被告人席を見てください、という。そして、念を押した。

──向かって、一番右側に座っているのが、廣瀬です。

 いつもは、その場所に豊田が座っていた。しかし、この日は廣瀬の殺した遺族がくるからということで、一番裁判長寄りの場所に座っていた。

 検察官の丁重な紹介にあずかって、廣瀬は初めて見る遺族に、2度3度と深々と頭を下げた。証人の女性は、廣瀬をじっとみつめたまま、ハンカチで顔を覆ってただただ嗚咽するのみだった。

 続けて、慇懃に検察官がいう。

──辛そうですから、最後の質問にします。被告人の処罰をどう思いますか。

 崩れそうになりながら、ようやく聞き取れる声で女性がいった。

「……死刑に、してください」

 そのまま嗚咽するばかりだった。

 そこへ裁判長が職員へいう。