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「こういうふうにすれば、社会で自由に動ける」

――「ゆきゆきて神軍」で奥崎が「今から東京に行く」と兵庫県警に電話をすると警備課の課長がすっ飛んできて、「先生、新幹線で行ったらよろしいですがな。またあの(田中角栄を殺すと書いた)車で行きますの?」と媚びるようなことを言う有名なシーンがありますね。行動を監視するわけですが、県警側は「うちはまた名神(高速道路)になるまでついていきます」「電話もらってうれしかったしね」と課長はあくまでも低姿勢で、奥崎は完全に警察をコントロールしているような振る舞いです。

「こういうふうにすれば、社会で自由に動けるぞというのを大阪刑務所での体験で学んだと思うんです。なるべく目立つ、官が嫌がることをやる。

 そうすると、事なかれ主義の刑務所の幹部は腫れものに触るようになった。刑務官に対して、できもしない要求をしてみると、10のうち一つ二つは実現していくんです。例えば官給のノート……。受刑者に渡してはいけないのですが、裁判で必要だからノートをよこせといったら、大人しくしておいてくれと、官給のノートを入れてしまうのです。

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 そういう、オフレコにしかならないような厚遇、待遇は奥崎に対して個人的にしていたようです。監獄なんていうのは、国家権力の大きな権威じゃないですか。しかし、そこで彼は結構自由に奔放にやっていたんです。ある意味、思想がしっかりしていれば自分は大丈夫だと確信していたのでしょう」(坂本・以下同)

ニューギニア戦線では数多くの日本兵が命を落とした

「出過ぎた杭」としての出所後

釈放前に収容した第3区事務所と独居舎房(坂本氏提供)

――独居房へ入ったのも自身の希望だったのですね。要求を次々に実現させていくというのは、出所してからの活動にもそれが、反映されている。パチンコもポルノビラもその犯行は出過ぎた杭ということでしょうか。

「出所した後に、ああいう事件を連続して起こしたというのをニュースで知って我々も驚きました。しかも映画でも言っていたように、人間が作った法律を恐れず、刑罰を恐れず、本当に正しきことを、永遠に正しいことを、実行すると公言している。警察だってビビります。まさに腫れ物です。一般の人はあんな街宣車を作って公道を走ったら、改造だとか、道交法違反だとか、なんだかんだ理由をつけてすぐにパクられますよ。

『ゆきゆきて神軍』の中で神戸拘置所にあの街宣車で行くシーンがあったじゃないですか。奥崎はあそこに居並ぶ職員に対して『貴様らはロボットか!』と怒鳴るわけですが、あそこには拘置所の幹部が一人も居ないんです。所長は位の低い者ばかりに対応させている。私は官のああいう態度に腹立つんですよ。

 それでまた警察も上層部は顔を出したくない、逃げたい。下に任せる。で、下は下で、『うまくいきました』という報告で終わらせたい。だから、出世ばかり考えている者は、対応する相手を刺激しないように金を渡して飲ませたり優遇したりするケースもある。それを報告しなければいいんですから。私は金もうけ目当てのエセ右翼もたくさん見て来ました。しかし、奥崎の行動は、天皇ポルノビラ事件で逮捕された獄中から無所属で選挙に出たことや、自著を自費出版で出して手売りしていることから見ても公利公欲であったと私も思います」