糖質制限で死亡リスクが高まるという研究も
一方、糖質制限では、糖質を控えたぶん、相対的に脂質を多く摂取しがちになるため、かえって死亡リスクが増えるのではないかという意見があります。2019年、欧州心臓学会誌に、糖質制限食を続けると、心血管系の合併症(心筋梗塞などの血管が詰まる病気)が増えて死亡リスクが上がるという研究結果が報告されました。
前にもお話ししたように、薬による治療や食事療法を行うのは「死亡リスクを下げる」のが最終目的です。ダイエットにより、体重が減って一見健康になったようにみえても、死亡する人が増えては意味がありません。
このエビデンスからは、糖質制限は長期的には健康によくないという可能性も否定はできなさそうです。
ハーバード大学による長期研究では?
最後に、ハーバード大学の長期研究を紹介しましょう。25年の長期にわたって、炭水化物の摂取量と、病気や死亡率との関係をみた研究です。
その結果、「炭水化物の摂取が多すぎても少なすぎても死亡リスクが高い」という結果が出ました。炭水化物のエネルギー割合が50−55%の人がもっとも死亡率が低く、40 %未満と70%以上はいずれも死亡リスクが高かったのです。
これは、貴重な長期にわたる大人数の研究結果ですが、「バランスの取れた食事をすることの大切さ」を示唆していると言えます。
ダイエット研究の難しさ
「こういう食事がいい!」といったん話題になると、多くの人がその食事パターンを真似しようとします。ただ、どれだけ「体にいい食事」だったとしても、それを続けられなければ意味がありません。
ダイエット研究で、被験者にいつもと違う食事を長く続けてもらうことは難しいですし、加えて、食事パターンを長期にわたって追いかける研究を行うことも非常に難しい、という現実があります。
また、ダイエットの研究は、「アンケート」によるものも多く、正確性に疑問符がつくことも珍しくありません。
健康診断などでは、「お酒を飲みますか? 飲むとしたら、週何回、一日に何合飲みますか?」という質問項目をよく目にすると思います。このような質問には、受診者の多くが過少申告をする傾向が知られていますし、わたしが実際に問診をする際にもそれを実感します。
さまざまなダイエットはどれも短期的には効果があるけれども、長期では体重減少や重病のリスク因子を減らす効果はなくなるという研究もあります。