「エビデンス」という言葉をご存知だろうか。もともと医学分野で、「科学的根拠に基づいた」という趣旨で使用されていたが、最近ではビジネスなど、他の分野でも多用されるようになってきている。
テレビの健康番組や、健康関連の雑誌などでも、「最新の研究に基づいた」と、エビデンスを強調する場面が増えており、視聴者や読者は、「エビデンスがあれば、絶対に正しい情報なのに違いない」と、思うかもしれない。しかし、そもそもの「エビデンス」が玉石混淆であるということは、あまり知られていない。
例えば、テレビや新聞でも、動物実験の結果が、「画期的な成果」として報道されることがあるが、動物実験のエビデンスの信頼性は非常に低く、動物実験で効果があったからといって、ヒトで効果があることがわかるまでには、さらに幾多の研究が行われ、多数の研究を統合した研究もなされる必要がある。
また、「エビデンスがある」といわれることでも、「糖質制限が体にいいのか悪いのか」「鶏卵がコレステロールをあげるのかあげないのか」というような、相反するエビデンスがあるようにみえるテーマもある。
実は、研究のデザイン(前向き研究なのか、後ろ向き研究なのか、どのくらいの人数がエントリーしたのか、どんな解析方法をしているのか)の違いなどの原因により、相反する結果が出ることもあるのだ。
また、食事の研究は、長期的な研究がどうしても難しく、短期的な結果に基づいて、健康へのよしあしがどうしても語られがちだ。
「エビデンス」という言葉は、今後ますます、マスコミや一般社会で使用されるようになるかもしれないが、それには、エビデンスについて、正しい理解が必要である。そういう考えから、わたしは『「エビデンス」(科学的根拠)の落とし穴』(青春新書インテリジェンス)を上梓した。以下は、「糖質制限」について、同書から抜粋する。
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「やせる」ことと「健康になること」は違う
糖質制限によるダイエットがブームです。わたしの周囲にも、「白米を食べないようにしている」と話す人が増えています。コンビニやスーパーで売られているサラダチキンは、糖質制限の追い風もあって、売り上げが増えて、種類も豊富になっています。
今までは、ダイエットというと「全体のカロリーを下げる」のが主流でした。しかし、糖質制限をすると効率よく体重が落ちることがわかり、昨今の糖質制限のダイエットブームにつながりました。