2月5日、産業界の新陳代謝を象徴するようなM&Aが行われた。電気自動車(EV)や家電向けモーターで世界のトップを走る日本電産が三菱重工業の工作機械部門で子会社の「三菱重工工作機械」を買収したと発表したのだ。
航空宇宙や造船などで日本の製造業をこれまでけん引してきた三菱重工業は、ジェット旅客機「スペースジェット」を手掛けてきた子会社の三菱航空機が業績不振により国内外の社員約2000人を半減させるリストラ計画を発表。2021年3月期決算は売上高が前期比8.4%減の3兆7000億円、純利益は77%減の200億円になる見通しだ。
莫大な資金を投入してきた「スペースジェット」は6回もの納入延期で事業縮小を迫られた。資金繰りが決して楽ではない同社は、苦肉の策として虎の子の工作機械部門を手放すことになったのだ。
そこに手を伸ばしたのが日本電産である。同社は、このM&Aが発表される2週間ほど前の1月25日、2021年3月期の通期業績見通しを上方修正。売上高は据え置いて1兆5500億円としたものの、純利益は昨年10月時点での見通しから150億円上乗せして1200億円と前期比では約2.1倍となる。
日本電産が好業績なのは、コロナ禍においても車載や家電向けなどのモーター事業で成長しているからだ。2020年4~12月の第3四半期累計では売上高が過去最高を更新すると同時に、徹底した原価低減も進めてきた。
2月26日現在の株式時価総額は、三菱重工の1兆350億円に対し、7倍以上の8兆617億円に達した。世界がこれからEVシフトしていくことへの期待値も含まれているのだろう。
中国発、激安EVの衝撃
「世界で3億台のEVのマーケットが生まれる」
その決算発表の場で、日本電産の創業者である永守重信会長はこう見通しを示した。現在、世界の自動車市場は8000万台程度。その4倍に迫る市場に成長するという永守氏の見立てには根拠がある。
いま世界ではEV市場が急成長している。昨年夏、中国の「上汽通用五菱」という小型車に強い自動車メーカーが発売したEV「宏光MINI」は、日本円で約45万円という価格が受けて月販3万台を超える爆発的なヒットとなった。