このクルマは、1回の充電で120キロ程度(カタログ値)しか走行できないが、マイカーを求める若者に受けているそうだ。これまでEVのネックは主要部品の一つ、電池の価格の高さにあった。しかし、生産技術の革新や量の増大によってコストが劇的に下がり始めた。
従来は1ワット時当たり20円程度だったのが、足元では14円程度までに下がっており、「宏光MINI」に搭載された電池は12円程度とみられている。電池の価格はさらに下落を続け、2024年頃までには10円にまで落ちる見込みで、そうなればEVの生産コストはガソリン車など内燃機関の車を下回るとされる。
電池価格の下落に加え、フォルクスワーゲンなど主力メーカーがEVを本格的に市場投入したことによって、欧州ではEVとプラグインハイブリッド車(PHV)の販売が急増しており、2020年の販売台数はこの2車種で前年比2.4倍の133万台。シェアは9ポイント増の12%だった。なかでも、日本と同じ「内燃機関大国」のドイツでは補助金の影響もあって3.6倍の39万台も売れている。また、中国でもEVとPHVは「新エネルギー車」と位置付けられ、全体販売が落ち込む中で2020年は11%増の136万台が売れた。
「EVの心臓部」で稼ぐ
こうした動きを永守氏は50年以上会社をけん引してきた経験から「革新が起こる前夜」と見る。30年近く前は富裕層だけが持つことのできた携帯電話が一気に普及して、今や一人で複数のスマートフォンを持つ時代になったのと同様に、米テスラなどのEVは現状では500万円近くと高額だが、これが一気にコモディティ化して大衆に普及していく流れが起こってくるだろう。
日産自動車でナンバー3の副COOから日本電産に転職し、昨年4月に社長に就いた関潤氏もこう語る。
「これまでは国民一人当たりの所得が6000ドルを超えると急に車が売れ出すと言われてきました。その場合の平均単価は日本円で約160万円、一番安い車が80万円程度。中国製の45万円のEVだと、所得が4000ドルくらいで買えます。こうした所得層を世界の人口ピラミッドから見ていくと、おそらく5~6億人はいるでしょう。ですから新車販売が2~3億台に増えてもおかしくありません」
いま、関氏が責任者として力を入れているのが車載向けモーター事業である。前述した三菱重工の工作機械部門買収も車載事業強化のためだ。なかでも、日本電産の成長の生命線を握るのが、EV向けの「トラクションモーターシステム」である。
これは、電池と並ぶEVの心臓部で、モーターとそれを制御する半導体、動力を伝えるギア(歯車)で構成される、電子・電機・機械が融合した「機電一体」の製品である。この事業を拡大させ、2030年に売上高10兆円の目標を達成させる考えだ。