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「規律がしっかりした組は伸びていく」

 前出の警察当局幹部OBは、暴力団事務所から帰る際に珍しい体験をしたという。

「靴を履こうとすると、右足の靴に対して、左足の靴が肩幅と同じぐらいの間隔が空けられていて、さらに半歩ほど前に置いてあった。たしかに、斜め上の位置に左足用が置いてあると、右の靴に足を入れた後によろめかずに左足の靴も履ける。なるほどと思った。当然、靴ベラは若い衆が手際よく用意してくれる。

 そこまでやるような規律がしっかりした事務所は勢いがある。警察OBとしてこのようなことを言うのはおかしなことだが、こういう組織はヤクザの業界の中でも伸びていく。ある組長に『若い衆の教育はどうしているのか』と聞いたことがあるが、『特に教育のようなことは何もしていない。親分である自分や先輩である兄貴分の動きを見て、自分で学んでいるのだろう』との回答だった」

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 警察としては、こうした規律が厳しい暴力団組織こそ重点的に捜査対象として勢いを止めなければならないということだろう。

山口組弘道会の本部事務所に家宅捜索に入る警視庁の捜査員(名古屋市、2019年) ©時事通信社

「部屋住み」を嫌って「半グレ」へ

 近年は、「警察官に会わない」「情報を提供しない」「事務所に入れない」などの「3ない主義」が多くの暴力団の間で広まっているため、こうした捜査員らによる事務所訪問は困難になってきているのが現状だ。

 かつては暴力団事務所での部屋住みの修行を終えて、晴れて一本立ちとされてきた。しかし、近年は若手がこの部屋住みや暴力団特有の規律などを嫌う傾向にあり、暴力団に入らずに振り込め詐欺などの違法行為でカネを稼ぐ「半グレ」という犯行グループが増加傾向だ。

 警視庁をはじめ全国の警察は半グレについても情報収集を強化するとともに、捜査態勢をシフトしている。近い将来、「部屋住み」という言葉自体が聞かれなくなる時代が来るかもしれない。