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引き戸を開けると、中には2人の女性がいた

「ここですよ。ここから細い路地を入ってください。向こうに店がありますから」

 車が入るのは難しい狭い路地の向こうに明かりが見えた。

 その明かりに吸い寄せられるように歩いていくと、『中村』と書かれた看板のある遊廓建築の建物が目に入ってきた。その建物を過ぎ、右手に折れるとさらに細い路地には、2軒の店が営業していた。

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 営業しているのは、タクシーの運転手さんの言った通り3軒だけのようだった。この3軒の中で、一番大きく古そうな「中村」に入ることにした。引き戸を開けると、中には2人の女性がいた。

©八木澤高明

 眼鏡を掛け黒髪の20代と思しき女性が椅子に腰掛けていた。もうひとりはカウンターの中にいた。カウンターの女性は、椅子に座った女性の親ほどの年齢に見えて、遣り手のおばさんのように思えた。

「こんばんは。値段はいくらですか?」

「30分、1万円です」

 と、遣り手と思しき女性が答え、立て続けに言った。

「遊び、どうしますか?」

「こちらの女性でお願いします」

 と、椅子に座った女性を指名した。

 上がり框の左手にある階段をのぼると部屋があり、障子を開けると、ちゃぶ台の上に置かれている電灯が、ぼんやりと部屋を照らしていた。白壁はほんのりと色あせていて、多くの年月が経過していることを物語っていた。

 部屋の様子だけを眺めていると、何だかひと昔前にタイムスリップしたような気分になった。

©八木澤高明

「建物は何十年ぐらい経っているんですか?」

「100年以上経っていると聞いてますよ」

 アミと名乗った女性は歴史の重みなど気にしていないかのように、あっけらかんと言った。100年以上前といえば、明治から大正ということになる。

 女性は、着ていた服のボタンに手をかけ、服を脱ごうとした。そして、私にも「服脱いで」と言った。

「いやいや、ちょっと話を聞きたいんで、セックスはいいですよ」

「えっ、ほんま、ラッキー」

と、嬉しさを隠すことなく、女性は弾んだ声で言った。

出された缶コーヒーをひと口飲んでから、話を聞いた。

「お風呂入ってないと思うんやけど、すごく臭い」

「アミさんはどちらの人なんですか?」

「私は大阪です」

「じゃあ電車で来てるんですか?」

「そうですよ。夕方から夜中まで働いて、朝になったら電車で帰るんです」

「毎日だと大変でしょう?」

©八木澤高明

「ここで働くのは週に3日、昼間は普通の仕事をして、それ以外の日はデリヘルでも働いているんよ。ここは働き場所としてはええよ。みんなのんびりしてるからな」

「ここでの仕事は大変なこともあるでしょう?」

「臭い人が来るのよ。何日もお風呂入ってないと思うんやけど、すごく臭い。一応仕事だから、やることはやるけど、絶対に体には触らせないし、舐めさせない。若い人だと、生でやりたがる人がいるんよ。それは絶対無理って断る。お兄さんが来る前に来たお客さんがいたんやけど、生で出来ないかと聞いてきたから、入り口のところで断ったんよ。私は絶対無理やわ。病気とかも怖いしな」