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「飛田はきれいな子が多くて無理やと思っていた」

「ここで働くきっかけは、何だったんですか?」

「もともと大阪のパチンコ屋でコーヒーレディーをやっていたんよ。知らんの? パチンコが出てる人とか台を離れられないから、そういう人にコーヒーを売るんよ。そこで働いていた子が、ここのことを知っていたのよ。それで働いてみたらって言われて、来るようになった」

「そのコーヒーレディーは高校卒業してから?」

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「いや、高校は中退して、最初はうどん屋で働いて、普通に昼間の仕事をしてからデリヘルに行った。それから24、5歳の時にコーヒーレディーをやったんよ。それでまたデリヘルをやりながらここで働きはじめた。私は喋るのもうまくないし、キャバクラとかも出来ないから、風俗が合ってると思う」

「大阪には飛田とか松島とかあるけど、そっちでは働こうと思わなかったの?」

「飛田はきれいな子が多くて、最初から無理やと思っていたんで面接に行ったことはないのよ。松島は面接に行ったよ。デブの人と行ったんよ。そうすれば痩せて見えるでしょう。面接を近くのマクドでやったんやけど、その人は断られて、めっちゃおこったんよ店の中で、そうしたらオーナーが『こっちだって選ぶ権利あるんよ』って、逆ギレしてた。私は横で見ててめっちゃおもろかった。そんで私だけ受かったんやけど、松島の他のお店の女の子を見たら、私は無理やなと思って行かんかった」

「ここだったら、いいと思ったんだね」

「そうやな。周りのお姉さんもいい人やしね」

「こんだけ建物が古いと何か幽霊とかも出そうだね?」

「そうやな、建物が古いからか、ここは幽霊が出るらしいんよ。女の人でな。その女の人を見た人はめちゃくちゃ売れるらしい。平成の前って何やったっけ?」

 彼女は平成生まれということもあり、すぐに昭和という元号が出てこなかった。思わぬ問いかけに、笑ってしまった。

©八木澤高明

「いや、私はママじゃないんですよ。女の子ですけどね」

「そう昭和の前の大正だっけ、その前の明治やったかな。そのもっと前からここはあったみたいよ。その頃の人がいるらしい」

「見たことはあるの?」

「ないのよ。だから売れっ子になれないのよ」

 30分が過ぎて、下に降りると、遣り手のおばさんにも話しかけてみることにした。

「ママ、随分、歴史を感じる建物ですね」

「いや、私はママじゃないんですよ。女の子ですけどね」

「失礼しました」

 と、詫びると、アミが助け舟を出してくれた。「お姉さん。お化けも出るんよなここ?」

「悪い霊じゃないんですよ。いい霊なんです。座敷わらしなんですよ。私は3度見ているんですけどね。ちょうど私のおへそぐらいの背の高さなんよ。障子のすりガラスの所から頭だけが見えてな。ただここしばらくは見てないな」

 色街がかつての勢いを失うにつれ、座敷わらしもどこかへ移ってしまったのだろうか。