「僕の中で今はタイミングじゃないんです」
――辻さんは刑事裁判の供述調書で「一生にわたって被害者の方とご家族に対して誠心誠意対応します」と供述しています。Aさん一家が一番知りたいのは、なぜその言葉を実行してくれないのか、ということに尽きると思うのですが。
「それはわかっています。でも僕の中で今はタイミングじゃないんです。僕の一生ってまだ終わっていないんです。僕の中では僕のタイミングがあるんです、これは。僕と弁護士さんのタイミングがあるんです」
――被害者ご家族としては「そのタイミングはいつですか」ということだと思います。たとえばお見舞いに直接いけないにしても、手紙を送るなどの方法もあったと思うのですが。
「弁護士からも、それ言われたことあります。でも、僕は手紙じゃなくて直接会いたいです、って断りました。逃げたと思われるのが嫌でね。手紙送ったらいいんかいって言われるんで、どうせ」
――ただ結果として、10年の間謝罪に行かなかったという事実だけが残っています。
「10年間というか、事故した当初は病院めっちゃ行きましたよ」
――事故直後に大阪の病院にお見舞いに行かれているのは記録にも残っています。しかし「お見舞いに行くと供述した」裁判が終わってからは行っていません。「こうしておけばよかったな」という後悔はありますか?
「後悔はないです。僕のタイミングではないし、10年の間にお見舞いに行っていれば終わっていた話でもないと思うんです。当時20代だった僕が行くよりも、もっと大人になって、世の中に貢献できた上でいかないと何の意味もないと思いましたし、謝罪できる内容もないと思いました」
――裁判の中で、髪を整髪料で固めていた姿がお母さんは気になったそうです。
「僕は、大切な時は身だしなみを固めておくことが礼儀だと思っているので、髪をカチカチに固めていたことは否定しないですけれども、僕は1人の人として乱れた寝癖で行くよりはカチカチにしっかりと固めた姿で行く方が誠意を見せられると思いました」
会いに行くことを弁護士に止められた
――裁判が終わって手紙は出さないと決めたほかに、弁護士の方とはどんな話をしたんですか。
「裁判中は、まずはしっかり謝ってくれと言われました。それで判決が出たら、刑事罰をしっかりと償ってくれとも言われました。それに対して僕は『前向きにしっかりと生きていきます』と言いました。
執行猶予が明けた後に、僕、弁護士さんに電話してるんですよ。『もう会いに行った方がいいんですかね?』って。そうしたら『絶対に行かないでくれ』と言われました。(お互い感情的になって)別の事件が起きてしまう可能性があるから、と。僕、裁判の時にお母さんに『地獄の本』っていう本を渡されたんですよ」