1ページ目から読む
2/4ページ目
目標は10人の殺害だった
もっとも、のちの公判で、上部が最初から池袋の事件を意識していたことが、明らかになっている。取り調べ時の供述調書によると、「池袋の事件のように包丁では大量に殺せないと思い、車を使用した」ことを明かし、その結果として「目標の10人の殺害には至らなかったが、半数ぐらいは殺せただろうと思い、少し満足し、抵抗せずに押さえられた」などと語っていたのだ。
このふたつの通り魔事件の2カ月前には、全日空機がハイジャックされ、機長が刺殺されるという事件が起きていた。
初公判は、同年12月22日、山口地方裁判所下関支部で開かれた。偶然か、あるいは何らかの意図があったものか、これまた全く同じ日に東京地方裁判所では池袋通り魔事件の初公判が開かれている。
この時、上部は罪状認否で、「あまり覚えてないが、ほぼ起訴状の通りと思います」とした上で、「ひとつだけ異議があります」と付け加え、事件から約1カ月半後に死亡した女性について「私が背後から包丁で刺した怪我は10日くらいで治ったと聞いています。被告人に殺人の罪を負わせるのは重すぎると思います」などと述べている。まるで他人事のように、自分のことを「被告人」と呼んでみせるあたりに、現実認識の乏しさを感じさせる。
そして、この上部の場合も、精神科への通院歴があったことから、弁護側も「被告は心神耗弱の状況にあった」と主張して刑事責任能力が争われることになった。