語り草になっている談合告発事件
「たまらず大林組が中心になって平島さんに対抗する新たな組織を立ちあげようとしたのです。やはり大林組の影響力は関西では群を抜いている。こうなると、さしもの平島さんといえども、スーパーゼネコンには太刀打ちできません。頼みの植良さんもゼネコン事件で神通力を失っていた。そうして一気に形勢が逆転しました」
大林組の動きに対抗してとった平島の行動が、突拍子もなかった。公正取引委員会へこれまでの建設談合の実態をぶちまけようとしたのである。いまも語り草になっている97年の談合告発事件だ。
この年の2月19日、当人がみずから「独占禁止法四五条第一項に基づく申告」と題した談合資料を唐突に公正取引委員会へ持ち込んだ。これを材料に、古巣の大林組をはじめゼネコン談合を糾弾させようと図ったのである。「みずから返り血を浴びる玉砕覚悟の告発」と話題を呼んだものだ。
しかも平島の告発先は、公取だけではなかった。もう一つの告発。それがときの建設大臣、亀井静香宛に提出した「建設業界における『談合』行為の実態についての報告とその是正に関する要望書」である。亀井は、すぐにこれに反応した。
「徹底的に調査する」
一時はそう言い、談合解明にやる気満々だった。少なくとも業界はそう見た。
ところが、告発から3週間後、亀井、平島双方の雲行きが怪しくなる。3月11日になって、平島本人がいきなり告発を取り下げてしまったのである。2月19日から3月11日までの3週のあいだに、いったい何が起こったのか、さまざまな憶測が入り乱れた。単なる壁越し推量も少なくなかったが、事実は長らく藪のなかだった。
その謎について、取材してみた。公取に告発した当時、平島の相談に乗っていた、という知人がいる。こう打ち明けた。
知る人ぞ知る平島拉致疑惑
「実は、告発を取り下げたとき平島さんが言っていました。『闇からの使者が来たんだよ』と」
実に曰くありげだ。驚いたことに騒動の渦中には、裏経済界のフィクサーと呼ばれた人物も登場したという。
「告発してしばらくあとのことだそうです。あの許永中が、大手出版社の幹部を連れてやって来た、と本人が話していました。彼らは『資料を全部渡して、こちらに任せなさい』と平島さんに迫った。平島さんはその申し出を丁重に断ったといいます。そして、それからしばらくして、平島さんが行方不明になってしまいました」
知る人ぞ知る平島拉致疑惑─。ある中堅ゼネコンの業務屋が、「私も拉致の話は平島さんから聞きました」とこう話す。