文春オンライン

“闇からの使者”による拉致後に消えた97年の談合告発 「よい談合、悪い談合がある」と語る亀井静香の“影響”とは

『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より #13

2021/03/15

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

note

「談合は聖徳太子のころからある。中央自動車道には『談合坂』という地名があるほどなんだよ。みんなで相談して物事を決めるのが、日本人の生活の仕方なんだ。だから、アメリカ流の市場原理を入れて叩き合いで競争すればいいとはならない。問題は、大手ゼネコンが地方の工事まで分捕ってしまうこと。談合のボスが自分たちの利益を得る。そのための談合は摘発せにゃいかん。だが、地方の企業が相談し、県や市の発注仕事を分け合いながら、ふるさとの建設をしていく。それは悪くない。そういうことだ」

平島告発の意味

 90年代前半のゼネコン汚職からおよそ10年後の05年末、大手ゼネコンが中心となり、再び脱談合が宣言された。以来、表向き建設談合は絶滅したことになっている。97年の平島栄による告発事件は、この間に起きたもう一つのエポックメークな出来事ともいえるが、すでにこのころから談合廃止の流れができていた、と関西のドンの一人、東急建設の石田充治が、談合の歴史についてこう振り返る。

「建設談合は、戦前から存在しました。とくに地方などは、地元の有力者とか、新聞屋のボスなどが、歩ゼリ(調整金のこと)を吸い上げながら工事を決めてきた。そうした得体の知れない黒幕のような元締めの手から脱皮しよう。それが業界団体の話し合いの始まり、つまり談合です。談合組織は本来、歩ゼリをなくし、清浄化しようという趣旨で旗揚げした。東京の水曜会しかり、大阪の栄会しかりです。ところが、それがまた途中から汚れていった。そこが問題だったのです」

ADVERTISEMENT

談合を汚すフィクサー

 汚れていった原因が、政治家や役人の介入であり、そのパイプ役となっているフィクサーやブローカーたちだ。05年末に業界が示した二度目の脱談合宣言は、そうしたグレーゾーンを排除するという旗印をかかげた。その結果、数少ない公共工事におけるたたき合いというダンピング競争が激化する。

©iStock.com

 成熟した日本社会で公共工事が減り、企業が淘汰されていく。それは自然の成り行きといえた。が、反面、業界全体の危機が叫ばれるようになっていった。そのなかで、それぞれの会社が生き残りをかけ、熾烈な受注合戦を繰り広げてきた。ゼネコン業界は、脱談合宣言があってなお混乱し続けている。それは脱談合宣言にかかわりなく、90年代からずっと引きずってきた問題でもある。そうして現在にいたるまで、暗く晴れない霧のなか、さまざまな事件が起きてきた。

【続きを読む】太田房江の府知事選では400社の業者が集結…関西談合組織による“ゼネコン選挙”の怪しい実態

“闇からの使者”による拉致後に消えた97年の談合告発 「よい談合、悪い談合がある」と語る亀井静香の“影響”とは

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春文庫をフォロー