文春オンライン

“闇からの使者”による拉致後に消えた97年の談合告発 「よい談合、悪い談合がある」と語る亀井静香の“影響”とは

『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より #13

2021/03/15

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

note

 ダムや原発など、発電所の建設工事で業績を伸ばしてきた水谷建設は、青木建設の下請けとして関空の工事に加わる。それを境に空港事業にも乗り出していった。会長の水谷功は、地元三重県に近い愛知県の中部国際空港工事に狙いを定めた。

とぼける亀井静香

「え、あのとき俺、建設大臣してた? ぜんぜん覚えがないな。平島なんか会ったこともないし、知らんよ。建設大臣と運輸大臣をやったから、マスコミは勘違いしているんだ。俺はゼネコン連中との付き合いはまったくない。建設大臣時代には、ダムを十いくつ、バシッと中止したくらいだからな」

 平島栄の談合告発事件では、建設大臣だった亀井静香の動きも注目された。そこで、当の亀井本人にも尋ねた。だが、なぜかあたまから事件そのものに記憶がないと否定する。

ADVERTISEMENT

 亀井静香といえば、告発事件の折、唐突に出版社の幹部とともに平島のもとに現れた許永中との間柄について、何度も報じられてきた。それだけでなく、水谷功との関係も深い。

 自民党時代には、空港を所管する運輸大臣も経験している。大きな経済事件や騒動が起きると、やたら登場場面が多い政治家の一人だ。平島による告発事件で、公取とともに談合是正の「要望書」を受け取り、「調査する」と気勢を上げたのは、前述したとおりである。

 建設業界があれだけ大騒ぎした談合告発事件は、ほかに見当たらない。平島栄の談合告発の裏には、たしかに表沙汰になっていないさまざまな思惑がうごめいていた。しかし、告発文書を受けとった当の亀井は、大臣宛の要望書はおろか、業界の“天皇”平島の存在さえ記憶にないという。どうにも不可解だ。関西のゼネコン談合担当者が、次のような話を明かしてくれた。

「俺といっしょに仕切ろうぜ」

「あの時期、亀井さんが関空の二期工事にすごく関心を示していたのは、間違いありません。現実に大手ゼネコンの担当者で、『俺といっしょに工事を仕切ろうぜ』と持ちかけられた人もいます。彼の地元広島には、中国地方一帯を取り仕切っている大林組の談合のドンがいて、長年にわたって竹下登や青木幹雄と工事を差配してきた。お兄さんが参院選に初出馬したとき、亀井さんはそのドンに選挙応援を頼んだが、断られた経緯があります。ゼネコン業界は竹下派の牙城ですから、建設大臣といえども、なかなか食い込めなかったのです。それで、平島事件を契機に何とか業界にクサビを打ち込んで、言うことを聞かせようとしたのではないか、と評判でした」

©iStock.com

 むろん亀井は、こうした業界の証言を全否定する。ところが、談合そのものを認めないわけではない。インタビュー時、建設業界のあり方について、「よい談合、悪い談合がある」と持論を展開するのだ。