一般には知られていない中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。
彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げたのか。ノンフィクション作家、森功氏の著書『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の2回目/前編を読む)
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知事選で招集された関西談合組織
政治とカネ─。まるで流行語のようになった政治資金を支えてきたのが、談合に用いられるゼネコンマネーである。地方の議会選から市長や知事選、衆参の国会議員選挙、果ては政党の代表選挙にいたるまで、選挙のたびに惜しげもなく、業界の現ナマがばらまかれてきた。政治にカネはつきものだ、とされる理由がそこにある。たとえば民主党内における小沢一郎の求心力は、抜群の選挙資金調達力があればこそだろう。一方、かつて田中角栄や金丸信が権勢を誇ってきたのは、そうした物心両面にわたるゼネコンのバックアップがあったからでもある。
ゼネコンは選挙の票集めにも奔走するが、厳密にいえば、選挙など政治活動を無償で手伝えば、政治資金規正法に触れる。それだけに、巷間、しばしば取り沙汰されてきたゼネコン選挙の実態や詳細となると、いまひとつ明確にならなかった。
「あれは太田房江さんが、大阪府知事選に初出馬したときでした。彼女の選挙応援をするため、大阪中の業務屋が一堂に会したことがあったのです。業界が知事や国会議員の選挙を手伝うのはめずらしくもなかったけど、あそこまでやったのは初めてでしょう。それは盛大な壮行会でした」
難敵がそろった大阪知事選
準大手ゼネコン東急建設元顧問の石田充治が、過去、ほとんど語られなかったゼネコン選挙の体験談を披露する。
1999年、タレント知事として大阪府民に人気を誇っていた横山ノックが失脚した。あろうことか、選挙カーのなかでアルバイト女性にセクハラを繰り返していた事実が判明し、大阪地検特捜部に逮捕されてしまったのである。
その翌2000年1月、急きょ府知事選に出馬したのが太田房江だ。清風学園の専務理事だった平岡龍人や共産党が推薦する関西大名誉教授の鰺坂真が対立候補として立ち、選挙は苦戦が予想された。わけても平岡の運営する清風学園は、88年のソウル五輪で活躍した体操の池谷幸雄や西川大輔の母校である。オリンピック選手の恩師という平岡の肩書は、太田にとって難敵だ。