夜になると気持ちが落ち込んで危ないという人は、家族とのコミュニケーションを増やす、一人暮らしをやめる、早目に寝るなど、生活パターンを変えるようにする。一番安全なのは、危なくなっても物理的に薬物使用ができないような環境を整えるということである。しばらくの間はお金を持ち歩かない、いつも家族のそばにいる、携帯やインターネットが使えないようにするなどの工夫をする。
「依存症は野良猫のようなもの」
不思議なことであるが、刑務所に入ると薬物への渇望だけでなく、タバコやアルコールへの欲求もほとんど生じない。物理的に不可能だとわかっていると、引き金が引かれないだけでなく、快感回路があたかも休眠したかのようになるのだ。したがって、社会内で生活する場合も、「引き金」をできるだけ遠ざけるだけでなく、物理的に薬物が使えない状況になるよう生活パターンの工夫をすることは非常に効果的である。「依存症は野良猫のようなもの」ということもよく言われる。野良猫は餌をあげていると居ついてしまう。しかし、現金なもので餌やりをやめるといつの間にかいなくなる。依存症の場合、餌に当たるのが「引き金」である。「引き金」が引かれ続ける限り、依存症という猫はいつまでも居ついてしまう。「依存症の治療にはどれくらいの期間がかかりますか」という質問をよく受ける。その答えは、「かつての快の記憶が消えるまでです」というしかない。また、より科学的な答えとして、脳の中で活動をやめたドパミン・トランスポーターが再生を始めるまで、少なくとも2年間はかかることがわかっている。だとすると、最低でも2年、それでやっと回復の兆しが見え始めるころである。
渇望への対処
引き金にいくら気をつけていても、意図せずに引き金が引かれてしまうことがある。ギャンブルをやめ続けていたのに、かつてのギャンブル仲間に駅前でばったり会ってしまったとか、テレビを見ていてアルコールのCMが流れたなど、意図せず突発的に引き金が引かれ、渇望が生じてしまうことは実際によくあることだ。
引き金の力は、非常に大きいので、こうなってしまうと、どれだけ「もう二度としない」と固く誓っていたとしても、渇望がわき起こり、リラプスが起きてしまう。
しかし、それを防止する方法もある。渇望への対処スキルを訓練しておくことである。代表的なスキルとしては、「思考ストップ法」がある。これは、渇望がわき起こってきたらすぐに、あらかじめ手首に巻いてあった輪ゴムをパチンとはじき、友達に電話をしたり、冷たい水を飲んだりするなどの方法である。
生理的に見て、たいていの渇望は15分以上は続かないことがわかっているので、15分間何か集中できることをするとよい。より確実にするためには、安全な場所、物理的に問題の行動ができない場所に身を置くことが望ましい。