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歯止めになりづらい治療法

 アルコール依存症治療では、古くから抗酒剤としてジスルフィラム(ノックビン)が用いられてきた。これは、肝臓のアルデヒド脱水素酵素の働きを阻害するものである。この薬を服用した後、飲酒をすると体内のアセトアルデヒドが代謝されず、発汗、頭痛、嘔吐などの症状が発生する。つまり、お酒が飲めない人と同じようになるのである。

 これは薬物療法ではあるが、心理療法の「嫌悪条件づけ」というテクニックを利用した方法である。飲酒と嫌悪的な反応を条件づけることによって、飲酒行動を抑制しようとするものである。患者さんには、こうした不快な症状が出ることを説明して毎日服用してもらうため、飲酒の歯止めになることが期待される。

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 とはいえ、これがなかなか歯止めにはならない。大丈夫だろうと高をくくって飲酒してしまい、救急車で運ばれる人はたくさんいる。また、飲酒を少量ずつ試してみて「これくらいなら大丈夫」と計算する人もいる。何のために投薬を受けているのかと思ってしまう。

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 これらの薬は、きちんと服薬すればそれなりの効果があるが、守らない人も非常に多い。そのため、服薬遵守のための心理療法とも併用することが望ましい。

認知行動療法

 依存症の治療において、最も確実なエビデンスがあり、治療の第一選択肢となるのは認知行動療法である。

 認知行動療法とは、元々うつ病の治療から始まった心理療法であるが、今や数多くの精神障害や心理的問題の治療に用いられている。さらには、心身症のような心と身体が大きく影響しあう障害の治療にも効果を上げている。

 依存症の治療に特化した認知行動療法の治療モデルとして、リラプス・プリベンション・モデルがある。「リラプス」とは、再発のことを指すが、依存症治療で重要なのは、問題となっていた物質の使用や行動を単にやめることではなく、「やめ続ける」ことである。作家のマーク・トウェインは、「禁煙なんて簡単だ。これまで何千回も禁煙したよ」と述べたというが、このように単にやめるだけならばいつでもだれでも簡単にできる。したがって、リラプス・プリベンションとは、リラプスを防止し、長く「やめ続ける」ことを目的とした治療モデルなのである。

 リラプス・プリベンションは、複数の認知行動療法的技法を組み合わせた包括的治療モデルであるが、中核的治療要素と周辺的治療要素に分けることができる。前者はほぼ全員に行うべきものであり、後者は各人が有するリスクファクターや問題性に合わせて実施すべきものである。

引き金への対処

 中核的治療要素のなかで最も重要なものは、引き金を見つけ、それに対処することである。引き金とは、まさに問題となっている行動を引き起こす刺激のことである。いくら意志の力で薬物をやめようと固く誓っても、引き金が引かれると快感回路にスイッチが入って渇望が生じ、リラプスへと至ってしまう。

 薬物依存症の場合、多くに共通する引き金は、薬物仲間とネガティブ感情である。薬物をやめようと思っていても、仲間から誘われたり、ストレスのあるときなどには、リラプスのリスクが高まる。