過ちを犯す引き金を理解しておくこと

 したがって、治療においては、まず各自にとって何が引き金なのかを見きわめたうえで、それに対する具体的な対処法を考えて実践することが最も重要になる。

 依存症が進むに従って、多くの人は生活のあらゆる場面が薬物と密接な関係を持つようになっていく。たとえば、まともな友達は皆離れてしまい、つき合いのあるのは薬物仲間ばかりとなっているのはめずらしいことではない。

 また、条件づけのプロセスによって、身の回りのありとあらゆるものが、薬物使用と結びつき、雨が降ったら使いたくなる、夜になったら使いたくなる、繁華街を歩いたら使いたくなる、などとしょっちゅう快感回路の「スイッチ」が押されてしまうのである。酒飲みが、「巨人が勝った」「巨人が負けた」「桜が咲いた」「雪が降った」など、ありとあらゆることを口実に酒を飲むのと同じである。

ADVERTISEMENT

©iStock.com

 引き金は本人が思っている以上にたくさんあるので、自分の生活を丹念に振り返り、薬物使用のスイッチを押してしまうものをリストアップして、これを注意深く避けるようにする必要がある。

引き金に対処する際のルール

 引き金に対処する際に重要なルールが三つある。一つは、「死人のルール」と呼ばれている方法で、これは「死人にもできるようなことはしない」というルールである。たとえば、「薬物仲間に会わない」「繁華街には行かない」というのは、引き金を避けるという意味では、良い対処のように思える。しかし、これは死人にもできることなので、これでは不十分である。

 これまでしょっちゅう薬物仲間と繁華街に行っていたような人が、それを避けてしまうと、孤立し退屈な時間が増える。孤立や退屈もまた、薬物使用の引き金である。したがって、引き金を避けることでぽっかり空いてしまった大きな穴を別のものでふさぐ必要があるのだ。

 だとすると、「薬物仲間に会わない代わりに、自助グループで新しい友達を作る」「繁華街に行かない代わりに、空いた時間には散歩をする」などの方法を各自で考えるようにする。自助グループに行ったり、散歩したりすることは、死人にはできない。

 二つ目のルールは、「誰かの助けを借りる」ということである。依存症の克服で大事なことは、一人でがむしゃらに頑張らないということである。上の例で言うと、散歩をするときは一人でするよりも、家族を誘ったほうが確実に実行できてより安全である。

 引き金のなかには避けることのできないものもある。ストレスや落ち込みは生きている以上、避けることはできない。夜になると使いたくなる人に、白夜の北欧に引っ越せというのは無理であるし、雨が降ると使いたくなる人に砂漠に引っ越してもらうのも無理である。

 この場合は、これまで引き金が引かれると薬物を使っていたという行動パターンを変えて、別の「代替行動」に置き換えるようにする。これが三つ目のルールである。ストレスを感じたら、運動をする、風呂にゆっくり入る、カラオケで思い切り歌う、お笑い番組を観るなど、本人の好きな方法をできるだけ多く試してみるように勧める。