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「依存症は餌やりをやめるといなくなる野良猫のようなもの」最低でも2年かかる“依存症治療”で必要な“3つのルール”とは

「依存症は餌やりをやめるといなくなる野良猫のようなもの」最低でも2年かかる“依存症治療”で必要な“3つのルール”とは

『あなたもきっと依存症 「快と不安」の病』より #2

2021/03/18

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, 読書, 医療, ヘルス

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大切なのは意志の力を使うタイミング

 ただ、これは日常的に練習してマスターしておく必要がある。突発的に引き金が引かれたとき、多くの場合、「思考ストップ法」のことなど吹っ飛んでしまい、渇望の波に飲まれてしまうことのほうが多いからだ。

 日頃から練習すると言っても、わざわざ引き金を引くような危ないことをする必要はない。要は「思考を切り替える」ためのスキルであるから、別の思考をストップする練習でもよい。イラッとしたとき、くよくよしたときなど、「思考ストップ法」を直ちに実行することがよい練習になる。

 意志の力では依存症には勝てないということをこれまでも述べてきたが、正確に言うと、意志の力を使うことは大切であるが、問題はそのタイミングなのである。何度もリラプスを繰り返している人は、意志の力を使うタイミングを間違っているのだ。彼らは、引き金が引かれて、渇望が生じたところで、大きな衝動に抗うために意志の力を総動員して我慢しようとする。しかし、それでは遅すぎる。

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 われわれが治療場面でよく用いる「坂道を転がる雪の玉の例え」を紹介したい。雪の玉が坂を転げ落ちていくと、当然転がるにつれて雪の玉は大きくなる。まだ転がる前の小さい玉が「引き金」であり、一番下まで転がり落ちた大きな玉は「渇望」である。「引き金」の段階では、まだ雪の玉は小さいので、対処が比較的簡単である。だから、「引き金」への対処を治療のなかでの最重要課題としているのである。そして、意志の力を使うのはここである。「引き金」が引かれないように十分に注意して、ライフスタイルを改め、対処スキルを活用するために、意志の力が必要なのだ。

©iStock.com

「引き金」「思考」に敏感になること

 とはいえ、どんなに気をつけていても、ふいに事故のように「引き金」が引かれることはある。すると「思考」にまで発展してしまう。薬物やアルコールのこと、パチンコやタバコのことなどが頭に浮かび、それについていろいろと考えてしまう。しかし、ここでもまだ雪の玉は比較的小さい。したがって、自らの意志で「思考ストップ」などのスキルを使って渇望の段階で雪の玉を食い止めることは十分に可能である。

 それを漫然と放っておき、思考が流れるに任せておくと、それは強力な「渇望」へと発展してしまう。もうこの段階になると、雪の玉は相当大きくなっており、もはやリラプスは時間の問題である。ここに至って、「やめなければ」「でもやめられない」などと葛藤して、意志の力で雪の玉を止めようと思っても、もう遅い。

 しかし、人は往々にしてこの段階になるまで気づかない。普段から「引き金」「思考」などを意識して生活を送っている人はいないからだ。したがって、治療のなかでこのような「雪の玉」の例えを活用しながら、今後は「引き金」「思考」に敏感に対処することの大切さを自覚してもらうのである。

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