顔がむくんでどす黒く変色し、寝てないような見た目に
松永による供述をもとにした冒頭陳述であるため、「楽しく」などといった肯定的な表現が使われている。だが、こうした連日の深酒によって、由紀夫さんは日中に仕事ができる状態ではなかったようだ。この時期の由紀夫さんの様子について、以前の勤務先である不動産会社の元同僚は、私の電話取材に答えている。
「広田(由紀夫)さんはおとなしいタイプで、あまり喋らない人でした。ただ、記憶にあるのは、仕事をせずに、いつも事務所のソファーで二日酔い状態で寝ていたこと。給料は売り上げに応じた歩合制だったので、あんな様子で大丈夫かと思っていました。いつの間にか職場に来なくなって、辞めたときもその理由は『一身上の都合で』だったと思います」
この元同僚は、偽名の「宮崎」を名乗る松永が、職場に来ていたことも記憶していた。
「何回かやってきたんですが、黒縁眼鏡をかけて髪は七三分けでした。身なりとか話し方がきちんとしていて、頭良さそうな人だなと思いました。宮崎さんがなにかを言って、広田さんが頷くといった感じで、見た目は仲が良さそうにしていました」
また、同不動産会社の社長は、事件発覚後の取材に次のように答えている。
「広田の様子がおかしくなったのは、1994年の9月頃からです。よく遅刻をしてきたし、無断欠勤も月に1、2回はありました。顔がむくんでどす黒く変色し、寝てないような見た目なので、夜遊びか、夜に別の仕事をしているのかと思っていました。そのうち営業の数字がどんどん落ち込んでいったので、途中で給料を引き下げています。その後、うちを辞めたのは95年2月でした」
こうした説明からもわかるように、水面下では、清美さんという娘を“人質”に取った松永による、由紀夫さんへの追い込みが、着々と進行していたのである。(第50回に続く)