K藤先輩の思い出
「あ、あの~ご入金の確認が取れていないのですが……」
「またお前か! いい加減しつこいんだよ‼」
「ひぃっ、ご、ごめんなさいー!」
今日もまた、いつものように督促の電話をかけると、返ってくるのは怒鳴り声ばかり。さすがに慣れましたが、それでもたまにへこむこともあるのです。私は今日もK藤先輩をつかまえて、グチをこぼしていました。
「もー、なんでみんな怒鳴るんですかね~。このままじゃ対人恐怖症になっちゃいますよ!」
「そりゃお金がないからみんな怒鳴るのよ」
「お、お金ですか?」
怪訝な顔をする私に、K藤先輩は少し遠い目をしながらこう言い放ったのです。
「お金がないと人は優しくなれないの」
これは、そう前置きしてK藤先輩がしてくれた昔話です。
昔、まだK藤先輩が前の会社で新人だったころ、勤め先の消費者金融は全国にたくさんの支店を持っていて、K藤先輩はとある地方の繁華街の店舗で働いていました。
そこは社員が三人ほどしかいない小さな支店で、お客さまにカードを作る審査から貸し付け、督促まで、全ての業務をそのお店の中で行っていたそうです。
それだけ社員が少ないと、よく来る常連のお客さまとはすぐに顔見知りになります。K藤先輩もそのころは初々しい女の子だったので(失礼)、お菓子の差し入れなどもよくいただいていたそうです。
「いつもありがとう、助かってるよ」
ある日、来店したお客さまはきれいにラッピングされた箱をK藤先輩に差し出しました。このお客さまを仮にY様とします。Y様は実業家で、まだ30代の若さだったそうですが、紳士的で優しく、とても素敵な印象の男性だったそうです。
Y様はK藤先輩が街頭で配っていたティッシュを見てお申し込みに来たお客さまだったので、K藤先輩にとっても、とても親近感のある方でした。
「ユキちゃん、これお土産ね」
「わぁ、うれしい! Y様いつもありがとうございます!」
なんと、Y様は融資や返済で来店をするたびにケーキやプレゼントを買ってきてくれる太っ腹なお客さまだったそうです。
ちなみにユキちゃんという可愛らしいお名前はK藤先輩の下の名前です。「えっ? お金を借りているのに差し入れをする余裕があるの?」というツッコミをすると、うっとりしているK藤先輩に殴られるので黙っておきます。