突然の豹変
ところがある日を境に、Y様の様子が変わってきました。返済が遅れがちになってきたのです。K藤先輩に差し入れをする余裕もなく、常にイライラしているご様子。このころからY様の事業が上手くいかなくなっていたのです。そしてとうとう返済が滞り、K藤先輩が督促をするようになりました。
「Y様、ご入金の確認が取れていないのですが……」
「分かってるよ! 分かってるけど今ちょっと支払う余力がないんだよ」
あれだけよくしてくれたY様です。しつこく督促をするのは気が引けます。けれども、待てども待てども、入金はありません。K藤先輩はまた電話をかけました。
「Y様、まだご入金がないようですが、いかがされましたか?」
「……うるせぇ」
「えっ?」
「うるせえっつってんだよ! もう電話してくんじゃねぇ‼」
ガチャ‼
受話器を耳に当てたままボーゼンとするK藤先輩。受話器を叩きつけられ、大きな音に耳がじんじんと響きます。あんなに優しかったY様が、声を荒げるなんて……。
その後も、Y様は電話をするたびにK藤先輩を怒鳴り、かなり長い期間連絡が取れなかったこともあったそうです。
「も、ものすごい豹変ぶりですね……」
「Y様はきっと銀行とか、ほかの金融機関からも督促を受けていたと思うのよね。連日違う会社から金返せなんて電話がかかってきたら、誰だって余裕なくなるでしょ?」
「そ、そうかもしれないですけど……」
「N本が電話をして怒鳴るお客さまだってそうなのよ。お金がなくて、かつかつの中、お金返してほしいなんて電話されたら、誰だってむかつくもんよ」
確かに「払えるんだったら、こっちだって払ってるんだよ!」とはよく言われるよなぁ、と私は思いを巡らせました。食べたいものや買いたいものも我慢している状況で、督促の電話がかかってきたら、優しくする余裕なんてないかも。
金を憎んで人を憎まず
「怒鳴るのはお客さまが原因じゃなくて、お金がないことが悪いのよ。金を憎んで人を憎まず、よね」
「はぁ~そうですね」と私はうなずくことしきり。
「ちなみにY様とはそれっきりだったんですか?」
「ううん、それからY様は法的な手段を取って復活して、その後もいいお客さまになってくれたわよ」
さすがK藤先輩! Y様の豹変にも、少しもひるまないようです。
「『愛さえあれば稼げなくてもいい』なんていう人も多いけど、お金が優しさを作るのも事実よね。N本も夢ばっかり追いかけて、貧乏な男に引っかかんじゃないわよ」
K藤先輩はそう言って、また私を小突くのでした。
「ひ、引っかかったことなんてないですよー! そこまでひどい人には……」
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