児童学習誌の理想は「オーガニックのお菓子」?
雑誌のデザインは、もっとスタイリッシュにできるんじゃないか。児童学習誌とはいえ、もっとカッコよく、アートな雰囲気にできるんじゃないか。そんなことも考えていたのだという。
「でも、結局やってみてわかったのは、やっぱり子どもにウケないとダメなんです。大人にとっての『上質』を単に押し付けても全然、響かなくて。子どもにウケる要素が中心にあって、その上でそのまま与えるのではなく、デザイナーは一流のデザイナーを使うとか、コンテンツメーカーはプロフェッショナルに頼むとか、そういうことを意識するようになりました。やっぱり子どもが『買いたい!』と言わないと、親御さん、絶対にお金は出さないんです。なにより子どもに選ばれないとダメなんですよね」
一方で、ただ楽しいだけのもので終わってはいけないのが雑誌の難しい部分でもあるという。
「お菓子と一緒で、子どもが喜ぶだけでは結局、甘くて栄養のないものばかりになってしまう。子どもが興味を持つんだけど、実際にそれをやると勉強になっている――そういう子どもが喜ぶ味の“オーガニックのお菓子”みたいな楽しいだけじゃなく、学びのあるものにしないといけないんです」
そんなこだわりが、前述のCM復活にもつながる下地になったという。
「あのCMって、とにかく“作り”がないんです。世の中の広告は良くも悪くも演出にあふれている。そんな中で、台本もなくて、ただただ子どもに言いたいことを言わせている。それをクリエイターが面白く切り取るだけ。スタッフは『毎回、胃が痛い…』と言っていますけど(笑)。例えば子どもが3人いたら、自然とトリオ漫才みたいな掛け合いになることもある。大人では想像できないことを言い出すんです。それも原点回帰で、子どもたちを中心においたからこそできたことなのかなと思っています」
アプリやSNSを活かした企画の発案も…
そんな確固たる方針のもと雑誌が好調の波に乗り始めたタイミングで予想外の事態も起きた。新型コロナウイルスの蔓延である。肝いりで復活したはずのCMも、このご時世では撮影に行くことができなくなってしまった。
そんなイレギュラーな事態の中で活躍したのが、展開したアプリだった。
「去年からローンチを検討していた『ピッカピカの一年生 CMメーカー』というアプリがあって。親御さんが子どもたちを撮った動画にそのアプリを使えば、自分のタイミングでロゴを出せて、CMみたいな動画が作れる。それをInstagramやTwitterにアップしてもらって、今年はその中から面白いものをそのままCMに使おうと考えています」
こういったアプリやSNSを活かした企画の発案には、若手編集者たちの感性が大きく寄与しているという。
「いまは単純に部数を増やすだけでなく、雑誌のタイトルやブランド力を使っていかにビジネスを行うかも大切。『小学一年生』だったら今年で96年を迎えるわけで、歴史がある分、多くの人にも知ってもらえている。そういう部分を活かしていこうと、新しい試みをみんな考えてくれていますね」