包茎手術は「医療界の無法地帯」に
また、病院が保険制度に加入するか否かは病院の自由であるともいう。自由診療をしている美容外科を保険制度に加入させ、患者が保険を使えるようにする強制力は厚生省にはないのである。だから、ふつうの病院で受ければ保険の効く真性包茎の手術も、美容外科では当時の額で12万円前後する(*2)。包茎手術の「医療界の無法地帯(*3)」ぶりが、国の不作為によって助長されていることがあらわになった。
*2 『DENiM』1994年7月、108頁、同年8月、108~109頁
*3 『AERA』1996年2月26日号の記事タイトル「医療界の無法地帯 包茎商法に騙されるな」より
1990年代の終わりから2000年代にかけては、包茎クリニックの価格設定や経営法に批判が集まった。当初は20万円と聞かされていた手術が「亀頭の強化のために」とコラーゲン注入のオプションをつけられ200万円にふくらんだ、ローンで総額300万円を支払わされた、相談だけのつもりで出向いたクリニックでその日のうちに手術されたなど、包茎病院の悪質な商法が新聞や雑誌で報じられたのである(*4)。
*4 『サンデー毎日』1998年2月15日、145~147頁、『毎日新聞』朝刊、1998年4月20日、東京地方版、27面、『たしかな目』2007年12月、52~53頁。そのほか、『週刊新潮』1999年6月17日、144~145頁、2005年6月2日、49~50頁、『サンデー毎日』2001年12月2日、113頁、同年12月16日、106頁、2003年8月3日、107頁、『政界往来』2005年3月、50頁ほかでも同様の事例が報道されている。
次第に明らかになる包茎手術トラブル
こうした事例は消費者センターに持ちこまれた。2008年には、東京都消費者被害救済委員会が報告書「高額な包茎手術の契約に係る紛争案件」を公表するにいたる。苦情の申し立てのあった事件について、有識者で構成される委員会がクリニックやクレジット会社にはたらきかけた結果が書かれている。98万~187万円だった手術費は10万円に減額された。術後、痛みが残った247万円のケースについては0円となった。「無痛」「無傷」などの広告のフレーズは医療法が禁じる虚偽広告・誇大広告に該当する疑いがあること、高額の手術費を支払わなければ不十分な手術結果となるといった説明があったことなどを考慮すると、民法にも抵触する疑いがあると指摘されている(*5)。
*5 東京都消費者被害救済委員会、2008、3~10、21~24頁。同様の報告書に同委員会、2012