賄賂の受け渡し方法
小説や映画の世界では、有力政治家に業者が工事の受注を頼むとき、その場で多額の賄賂を渡す場面がよく登場する。だが、それはあり得ない、と石田が指摘する。
「先出しの話は、だいたいウソが多い。そんなもの、危なくてできません。だから、大きな金は必ず成功報酬です。地方自治体の工事なら、議会の議決を得て契約が確実にならないと渡せない。そのへんの田舎の政治家先生なら別だが、そこは向こうもわきまえているものです」
では、具体的にどうやって渡すのか。
「藤波さんの事務所で挨拶したときでも、『阪大、よろしくお願いします』くらいは言うたかもしれんけど、それ以上余計なことは言わない。すでに本省と藤波さん、松永さんの間の阿吽の呼吸で、『東急が事務所に来たらそれでOK』と話ができている。だから、まずは挨拶だけですぐに引きあげました」
石田はさすがに裏金のことになると、言いにくそうな表情をする。ようやく言葉を絞り出した。
莫大な額の「挨拶料」
「藤波先生はニコニコして、『はい、はい』って言うだけだったように思います。阪大は上位30社の業者みなで工事を受注しましたから、本当は準大手のうちも確実に受注できるはずだった。だけど、万が一漏れたら格好つかない。だから挨拶に行ったのです。たしかあとから業界として金を集め、文教族の三人の先生に渡したのと違いましたかな。1社あたり片手(500万円)で、30社で1億5000万くらいだろうと思います」
1社あたり500万円で合計1億5000万円。それでも各社にとっては単なる挨拶料というのだから、やはり世間相場とはずれている。関西建設談合のドンにとって、挨拶料程度などは数え切れないほどあったという。ゼネコン各社の担当者は、少なくとも談合決別宣言のあった05年末まで、政治とカネの世界にどっぷりとつかってきた。政官業のトライアングルで、談合がしっかりと組み込まれ、機能してきたのは間違いない、と石田はみずから告白する。
「むろんこうした官公庁の工事は文科省だけでなく、国交省や厚労省、防衛省など、広範囲におよんできました。自衛隊施設の建設を受注するため、天下りを受け入れる。それも政官界との関係づくりの一環です」
一方で、自らの歩みを次のように顧みる。
「談合は本来業界内の調整機能だったはずです。そこに、政治家や役人の入り込む余地が生まれ、歪な形態になってしまった。それが現実なのです」
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