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空港は厳戒態勢、数千万円はトイレに捨てた

 しかし、狙い通りにはいきません。厳戒態勢の影響なのか空港には客が数人しかおらず、全便欠航になっていたのです。

 数千万円を手元にもっているのも問題でした。身体検査をされたら説明ができません。ATMで送金してしまおうと思ったのですが、ここも警察に先手を打たれていました。すべてのATMの電源が止められていたのです。私たちが空港に逃げ込んでいるのがバレているのは明らかでした。

 仕方がないのでトイレのゴミ箱に金を投げ込みました。後で部下にとりにいってもらえばどうにかなると考えていました。

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 次は私たちが脱出する方法を考えなければなりません。かなりリスクはありますが、タクシーで検問を抜けていくことにしました。

 このとき私は何枚かの運転免許証をもっていました。ほとんどは偽造ですが、1つは日本人名の本物です。自動車学校で他人になりすましてとったものでした。空港のすぐ近くで1つ目の検問に出くわしましたが、この免許証のおかげで無事に突破できました。

©️藤中一平

逮捕の瞬間、偽造免許証をライターで炙った

 しかし、今になって思えばこれが罠だったのかもしれません。空港のすぐそばで止められたならば、再び空港に逃げ込んで従業員を人質に取ることもできました。おそらく警察はそれを警戒して、空港から離れさせるために素通りさせたのだと思います。

 第2の検問がすぐに現れました。最初のものとは比べ物にならないほど厳重で、バリケードのようなもので道が封鎖されており、プロテクターをつけた自衛隊員たちが待ち構えています。

 タクシーの運転手は気楽なもので、私が犯罪者とは知らないから「さっきも検問やったじゃないか」などと愚痴っていました。

 そして自衛隊員に指示されるまま停車し、運転席の窓を開けた瞬間のことです。

 自衛隊員はタクシーの運転手の上半身を掴むと、窓から引きずり出したのです。凄まじい勢いでした。運転手は半狂乱になり、「何? 何?」と叫んでいます。私は逮捕されることを確信しました。

汪楠氏 ©️藤中一平

 そんな中、ほんの少しだけ幸運に恵まれます。自衛隊員の連中は運転席をいじるのですが、私が座っている後部座席のドアをあける方法がわからないようなのです。運転席と後部座席の間には仕切りがあり、こちらに手を出すことができません。窓の外に何人もの隊員が張り付き、「開けなさい」と怒鳴ってきます。

 チャンスだと思いました。私は普段から犯罪の証拠になるような書類は持ち歩きませんが、このとき唯一問題があったのが偽造運転免許証でした。財布から急いで取り出し、名前と番号の部分をターボライターで炙り始めました。窓の外で隊員たちが何か喚いています。時間との戦いでした。偽造免許証の個人情報をすべて炙り終わった瞬間に窓ガラスが砕け散りました。

 こうして私は逮捕され、大分県の別府警察署に連行されることになりました。(#6へ続く)

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。