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映画『水を抱く女』クリスティアン・ペッツォルト(映画監督)――クローズアップ

2021/03/25

source : 週刊文春

genre : エンタメ, 映画

note

「いまや、世界中を探しても労働できる手を持っている俳優はなかなかいません」

――フランツ・ロゴフスキが演じるクリストフの造形は、どのようにつくりあげていったのでしょうか。

ペッツォルト 『未来を乗り換えた男』で初めてフランツ・ロゴフスキという俳優と出会ったのですが、あの作品のなかで、フランツが小さな男の子と一緒にラジオを修理する場面があります。その場面を撮影していたときに、彼がとても器用で、いわゆる仕事をする手の持ち主だと気づきました。いまや、世界中を探しても労働できる手を持っている俳優はなかなかいません。ところがフランツはまさにそのような手を持っていて、身体的にそれを表現できる。私はこうした体の動きや手の動きは、映画の大事な一部分だと思っています。映画は単に美しい顔を見せたり珍しい場所を見せたりするのではなく、もっと違うものも見せなければいけない。フランツが演じるクリストフという人物は、水の下で働く人、つまりプロレタリアート(労働者)です。彼はとてもシンプルで明確な考えを持ち、同様に、単純でいて美しい愛情を持っています。

©SCHRAMM FILM

――フランツさんはもともとダンサーとして活躍していた人ですよね。そうした経験が、映画にも影響を及ぼしていると思いますか。

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ペッツォルト ええ、そのとおりだと思います。水のなかで彼はダンスをしている。その印象は私も充分に受けました。実はフランツは、今回の撮影まで潜水の経験が一度もなかったんです。彼は生まれつき耳に障害があり、水中の圧力には耐えられないという理由で水に潜るのをずっと禁止されていたそうです。そこで今回の撮影でも、当初は水中のシーンではスタントマンを使おうと考えていました。どうせ水中ではマスクをかぶるので大丈夫だろうと。それでも念のため、医者に確認をしてもらいに行ったんです。そうしたらなんとすでに耳の具合は治っていて、どれくらい潜っても問題ありませんよ、と言われました。ですからこの映画の撮影で、フランツは生まれて初めて水のなかに潜ったのです。それは彼には信じられないほどの喜びだったようです。水中という新しい世界に出会ったわけですから。その喜びが画面にも現れているのではないでしょうか。