――お話をうかがっていると、ウンディーネとクリストフというキャラクターは、パウラ・ベーアとフランツ・ロゴフスキという二人の俳優がいなければ生まれなかったのではないか、という気がしてきました。
ペッツォルト 前作『未来を乗り換えた男』の撮影がもう終わりに近づいた頃、私はひどく感傷的な気分になっていました。これで二人と過ごす時間も終わりなのだな、と寂しくなったんです。同時に、まだ終わってないぞ、という直感がよぎりました。そこで私は二人に、次はウンディーネの映画を作るつもりですでに脚本もできているんだ、という話をしました。実はその時点ではまだ詳細は何も決めていなかったんだけど(笑)。マルセイユのカフェで、私は即興でウンディーネの映画について話をつくっていきました。ある男が愛を求めて水のなかへ入っていき、女は愛を求めて陸にあがってくる。それは『未来を乗り換えた男』のラストシーンとも重なる内容でもありました。『未来を~』では、女は水のなかで溺れてしまうけれど、愛を求めて彷徨い続けている。そして男は、水のなかからやってくる女を陸で永遠に待ち続ける。だからこの2作品はある意味でつながりあうことになるだろうと話をし、一緒にやりたいかと二人に聞きました。彼らはぜひ脚本を読ませてほしいと言ってくれました。そこで私は大急ぎで脚本を書き上げ、無事に映画化にこぎつけたというわけです。
ウンディーネ神話を広げたドイツロマン派は宮崎駿作品に「どこか似ている」
――冒頭、ものすごく凶暴な風が吹きウンディーネの髪の毛をかき乱します。あの素晴らしいシーンはどのように作り上げたのでしょうか。風のなかで撮りたいと予め狙っていたのですか。
ペッツォルト 意図していたわけではありませんが、あのシーンを撮影したときのことはよく覚えています。私は二人から5メートルくらい離れたところにいたのですが、本当にものすごい風が巻き起こっていました。彼女の髪をくしゃくしゃにかき乱し、背景にはまるで西部劇のような土埃が舞っていた。その瞬間、私はとても幸せな気持ちになりました。自然が勝手に映画のなかに入り込みフィクションの一部になる。それは映画製作においてもっとも素晴らしいことのひとつだからです。