ある日の朝、僕が家を出るとき、妻のあまりの様子に「洗脳されてる?」と思わず口をついて出てしまった。そのときはマルチ商法が何かも、X社のことも、僕はよくわかっていなかった。カルトのことも洗脳のことも知らなかったけど、「洗脳」という言葉が僕の頭に浮かんだのだ。妻は驚いた顔をしていたが、何も言い返さずきょとんとしていた。僕は黙って家を出て仕事に向かった。
妻、X社製品を処分したら寝込む
妻にX社をやめてほしいことを伝えると反発されたり、黙り込んでしまうということが繰り返された。X社のすばらしさを理解できない僕が悪いかのように言われてしまう。もう真正面からやめてほしいこと、X社の製品が嫌だということを伝えても、こじれるだけだった。X社の製品を買いはじめたときは、まさかこんなことになるとは思いもしなかった。いずれ飽きるだろう。その程度にしか考えていなかった。どうしてこんな状況になってしまったのだろうかと、もうどうしたらいいかわからなくなってしまった僕は、離婚したいと妻に言うようになっていた。「X社の製品を家からなくしてくれ、捨ててくれ。X社じゃなくても良いものはいっぱいあるはずだから」と。最後の願いだった。
僕の願いは受け入れられて、家からすべてのX社製品がなくなった。「これでX社製品のない生活に慣れたら、目が覚めてくれるのでは……」。そんな甘い期待は3日で打ち砕かれた。X社製品がなくなって3日後、妻が床に横たわり動かなくなった。「空気清浄機がないと……、浄水器がないと……、X社の製品がないと、身体の調子が悪い」と、青ざめた顔をして床に寝そべり、身体をブルブル震わせていた。その姿を見て僕はあきらめた。本当にX社製品がないと妻は死ぬかもな、と。「いいよ。X社製品があってもいいよ」。いったん我が家から平泉さんの家に運び込まれていたX社製品が、再び持ち込まれ、また我が家はX社製品だらけになった。
【続きを読む】「私は気味の悪い化け物と暮らしていた」自殺未遂まで追い詰められた“マルチ商法にハマった母”からの洗脳