一般には知られていない中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。
彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げたのか。ノンフィクション作家、森功氏の著書『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)
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大名旅行のようなカジノ通い
裏金づくりのカモフラージュのためか、それとも純粋に博打好きなのかわからないが、水谷功は、ゼネコンの談合担当者とともにしばしば海外のカジノ賭博場へ繰り出した。カジノツアー参加者の一人が、振り返る。
「ゼネコンの談合担当者たちが海外のカジノツアーに行くときは、まるで大名旅行みたいだったわ。とくに大林組で名古屋の地下鉄工事を取り仕切っていた中京地域の業務屋のドン、柴田政宏さんは無類のカジノ好きで知られていてね。準大手から中堅、下請けまで談合担当者を引き連れ、しょっちゅう韓国に行っていました。通常レートの何倍も高いバカラのテーブルの真ん中にでんと腰かけチップを置く。他の業務屋たちは柴田さんの勝ち負けを眺めながら、その後ろに立ったまま控えていました。まるでボディーガードのように」
「談合にかかわった工事は何兆円もある」
柴田といえば、06年11月、名古屋市発注の下水道工事談合で名古屋地検特捜部に逮捕された談合のボスだ。大林組名古屋支店の元顧問であり、柴田の部下だった元副支店長の小林恵二ら5人が談合罪に問われた。長年、東海地方の公共土木工事の談合を仕切ってきた業界の有名人である。先のカジノツアー参加者は、ギャンブルにおける大林組の柴田の度胸のよさが印象に残っているという。
「地下鉄工事はもとより、過去、談合に係わった工事は何兆円もある、と柴田さん本人が話していたほどの実力者です。ソウルのカジノでは、ポケットから200万円ずつ現金を出してチップを買っていました。そのチップの山をバカラのテーブルに置いて、派手に賭けとった。取り巻きの業務屋さんたちは、恐れ多くていっしょのテーブルには座れへん、いう感じやったね。柴田さんの様子を7、8人の業務屋さんたちがテーブルの後ろにひかえて眺めていただけ。私はたいてい柴田さんの隣でやっていましたから、いちど『うしろの人たち、やらへんのやったら、帰ってもろたらどうですか?』と柴田さんに言ってみたのですが、『ええんや、好きで見とるんやから』と気にもしてませんでした。柴田さんの遊びが終わるまで、他の人たちはずっといましたで」