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40億円が行方知れず…捜査局に“裏金工作”の全貌を解明させなかった水谷建設の“防御システム”とは

『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より #18

2021/04/05

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

note

カモフラージュされる裏金の使い道

 むろんカジノ好きの水谷だから、バカラ賭博で大負けしたケースも少なくない。反面、そこには別の狙いが隠されている。遊興費や暴力団関係者への礼として裏金を使ったといえば、捜査当局としても、それ以上の追及が難しくなる。水谷はそれを計算したうえで、本当の使い道を隠すためにそう供述してきたフシがある。やり方は、カジノ通いをマネーロンダリングのカモフラージュにしてきたのと似ている。むしろ裏金の大半は、その行方が杳として知れない。

 水谷建設に対しては、検察主導の下、国税当局による大掛かりな捜査が展開されてきた。福島第二原発の残土処理をめぐる名古屋国税局の調査から始まり、東京や札幌でも水谷建設に税務調査が入っている。それはまさに、東京地検特捜部が水谷建設の裏金解明を狙った捜査の一環といえる。

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 たとえば札幌国税局が調査していたのは、北海道美瑛町の忠別ダムの工事を巡る裏金だ。地元地権者の説得工作資金として、大成建設の下請けに入った水谷建設が6億円の裏金を用意した。かねて、北海道旭川開発建設部の調査官を通じ、その裏金を建設業者などに手渡していた疑惑が浮上していたのだが、東京地検は改めてその疑惑を掘り起こそうと捜査に着手した。

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6億円の使途不明金を清算

「その資金操作のためにMI開発というトンネル会社がありました。水谷功の頭文字をつけたコンサルタント会社ですが、実態はペーパーカンパニーでした。国税局や地検の捜査により、その実態がばれるとまずい。それで、会社を清算しようとしたのです。ところが、あまりに経理処理が杜撰だった。それで苦労しました」

 水谷建設グループで、MI開発の清算処理にあたった担当者が記憶を呼び起こす。

「6億円の不明金を処理するため、2003年に裁判所に会社の破産を申し立てました。債務の免責が下りたのが、翌04年だったと思います。会社を清算するにあたり、国税や地検とかなりやり合いました。なにしろ6億円すべてが使途不明金ですから、その理由付けが大変でした。暴力団筋に流れたことになっているけど、実のところ水谷会長以外その金がどこに行っているのかわからない。社員や関係者は、それを会長に聞いても仕方ありませんから、わからないまま処理するわけです。そこで、とにかく架空の不渡り手形を用意し、損金として経理処理するようにしていた。このことでのちに検察に呼ばれ、検事にずい分しぼられました。不渡り手形を机の上にズラーッと並べられ、しつこく尋ねられました」

 取引先から約束手形で支払いを受けたが、そこが倒産して不渡りになったため、損失を出した─、そういう架空取引をでっちあげようとしたわけだ。その体裁を整えるため、手形を用意したのである。