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40億円が行方知れず…捜査局に“裏金工作”の全貌を解明させなかった水谷建設の“防御システム”とは

『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より #18

2021/04/05

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

note

特捜部の徹底調査

 脱税事件で特捜部は、水谷功をはじめグループの取引先すべてを取り調べた。

「俺も、検事から苫小牧にある朝日建設の帳面を突きつけられながら聴かれたよ。朝日建設の社長は、水谷功会長がガキのころから付き合いのある幼馴染で、会長が陰のオーナーという感じの会社だ。その水谷会長から頼まれ、俺が向こうに(プールしてある裏金を)取りにいったんだ。その出金のとき、俺に渡したと会社の帳面に書いてあった。それを検事に見せられ、『これは何の金で、誰に渡したんだ』と尋ねられるわけです。でも、俺自身でさえ、そんなこと忘れとった。検事から言われてはじめて気づいたんだ」

 30年来の取引がある下請け業者が、記憶のヒダをめくる。

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「俺が会長から頼まれて書類や現金を運んだのは一度や、二度じゃない。10回、20回でもきかねえんじゃないかな。だから、北海道の朝日建設のときがどういう目的だったか、1000万円だったか、5000万円だったか、いくら運んだのか、なんて本当に覚えていないんだよ。検事からは『あんた、ずい分カネ持ち運んでるね』って言われたくらいでね。感覚がマヒしているっちゅうわけじゃないけど、ああなると、お金でも石っころでも同じなんだよ、自分の感覚としてはね。メモ取ったらいろいろ残ってまずいだろ。一切メモ取ってないから、順番に忘れていく。だからぜんぜん思い出せない。地検からいくら聞かれても、無理だったんだから」

 実はそれが奏功する。

行方が知れないままの40億円……

 裏金づくりを担う重機貿易ブローカーやそれを運ぶ下請け業者、水谷功はそうした取引先や取り巻きを効果的に配してきたように見える。彼らは裏金を水谷建設あるいは水谷本人に届ける。が、その先の使い道については知らされないし、尋ねることもない。そこで資金工作の流れがいったん遮断されているわけだ。それゆえ、捜査当局も追及しづらくなってしまう。

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 ある意味、裏金流通の解明が途絶えるような防御システムともいえる。また、カジノの馬鹿遊びや暴力団関係者との交際も、似たような性格の役割を担っているという見方もできなくはない。現に、くだんの脱税事件では、東京地検を中心に大がかりな捜査を展開したが、結局、40億円の不明金はその行方が知れないままだ。別の取引業者がそのカラクリの一端を明かす。

「水谷会長は山口組と住吉会という二大暴力団組織の幹部と付き合いが深い。たとえば脱税事件でも、住吉会系の親分に渡したって言い切っちゃってる。だから、検事はちゃんと親分を事情聴取に呼んだ。警視庁ならいざ知らず、ヤクザが地検に呼ばれるのもめずらしいでしょ。親分は土砂降りの雨のなか、蛇の目傘を差し、作務衣と下駄履きで地検に入って行きました」