辞めるなら金を置いていけ
鈴木 今は頼み込めば最終的には辞めさせてくれる組織のほうが多いとは思いますが、しかし、足抜けしようとして揉めて「指を落とせ」とか言い出すのは、現実にある。裏に感情のしこりがあるからです。これは、仁義というよりは、辞めるやつに意地悪したいのが本音です。
溝口 まぁ、すんなり辞められるかと言えば難しいのではないか。その場合、お金を置いていけ、と言う組が圧倒的に多い。辞めたいのなら、金を置きなさいと。
僕の知っている山口組二次団体の直参で事業をやっていた人間はそれをやられて、金を納め、指を落としても許してもらえず、また金を置いていくということをやられて、最終的には担当者が代わったことによって放免されたけれども、これがあるからなかなか組は辞められない。
なぜ指を詰めるのか
鈴木 その背景には、ヤクザを辞めてうまいことやろうとしやがって、という感情的なしこりもあるのだと思います。
指というのは本来、もらっても一銭にもなりません。だから断指(指を詰めること)を毛嫌いする親分もいます。ただ、自分の身体をちぎり取ったという事実を提示されれば、ある程度、譲歩をしなくてはならないという慣習は今も残っている。土地によっては、指を詰めることによって初めてヤクザになるみたいな価値観もある。これには地域性もあって、中国地方ではちょっとしたことでもすぐ「指を詰めるのがヤクザだ」みたいな組織もあるんです。極端な場合だと親分を車で送るのに5分遅刻したから指を詰めろとか、そんなことまであり得ます。
溝口 逆の場合もある。竹中兄弟(竹中正久・四代目山口組組長とヤクザになったその他の兄弟)は全員が「指は一本も欠けてない」と言っていました。刺青も誰も背負ってない。それは、彼らの持つ誇りなんです。要するに、自分は指を飛ばすほど、義理を欠いたことをしたことがない、そういう誇りを持っていた。
鈴木 竹中兄弟らしい合理性ですよね。
溝口 刑務所に行っていじめられるから、刑務所に入る前に刺青を完成させようという考え方もあるけど、自分は刺青を背負わないで刑務所に入っても、同房の者にいじめられないという自信があるから、入れないんです。