ヤクザ社会から追放されると……
鈴木 破門の場合は、他の組織とマチガイが発生し、和解のテーブルで相手組織から当事者の処分を要求されたりします。たとえばこっちの不手際で相手の若い衆を殺してしまったとする。落とし前として見舞金を何千万か支払い、なおかつ、こちらの組員を殺した当事者を処分してくれ、などと手打ちの条件が出されるわけです。「黒蓋で手打ちになった」と表現されるときは、お互い、いろいろ言いたいことはあっても、無条件で手打ちすることに合意したという意味になる。黒は裁判官の法衣と同じで、もう何色にも染まりようがないからです。もし手打ち破りをしたら大問題ですが、時折あります。
溝口 絶縁や破門をされると、一切ヤクザ交わりができなくなる。自分がそれまで所属していた組に限らず、あらゆる暴力団と関われなくなります。ヤクザというのは、中世ドイツのギルドみたいな同業者組合的要素がある。ギルドの親方が、こいつは駄目だよと言うと、永久に業界追放になる。それと同じことで、絶縁や破門で放り出したら、他の組は一切救いの手を差し伸べてはいけない、救済してはならないという、そういう取り決めがあるわけです。
例えば破門されると、全国の暴力団事務所に「破門状」が発送されます。「当組の若者、○○は当組の趣旨に反し、不都合があった。よって幹部一同協議して破門とした。今後は一切当組とは関係ないので通知する。なお、貴殿におかれても、この者を客分とすることや、この者と縁組、交遊、商談することは固くお断わりする」といったことが書いてあり、この者を組員として拾うな、拾えば自分の組への敵対行為とみなすという意味です。
鈴木 ヤクザ社会そのものからの追放ですね。昔は確かに効力がありました。
半グレの手伝いをする元ヤクザ
溝口 絶縁状や破門状は、交際団体にもすべて配るというのが原則です。もっとも破門状の場合、警察への言い訳のために自分の組内に破門状をまいて、その人間が逮捕されても、「破門してますから、うちには関係ありません」と言い訳するケースもある。しかし、通常は絶縁や破門をされた場合は、カタギとして生きていくしかなくなる。
鈴木 何が大変かといえば、ヤクザは周囲を威圧して生きてきました。しかしカタギになった途端、そんな態度は取れない。
溝口 今はカタギの人間だって、再就職はなかなか難しい。カタギのスポンサー、地場産業の社長連中なんかに頼み込んで、再就職を斡旋してもらうというケース、それが難しければ半グレの手伝いをするとか。
「5年ルール」と言ってヤクザを辞めても5年間は銀行口座を開けず、住まいも借りられない。そのため就職もままならず、ろくでもない生活になる人が圧倒的に多いです。