指導者たちは瞬間的な成績が出ればいいと思っている
女子アスリートは食事制限をされる一方で、男子の長距離選手達はしっかり食事を取るように指導されることが多い。
練習強度が高くなると、走りの振動などで内臓も疲弊をする。胃腸が疲れていると、選手によっては食が細くなり、高強度の練習を維持できなくなるからだ。
「女子選手が積み重ねをできないのは、そこだと思っています。今、マラソンでもトラックでも、箱根駅伝でも、男子陸上界は次々と記録が出ています。強い選手が次々と現れて、しかも長く活躍し続けている。ところが女子は記録を出しても、そのあとが続かない。その瞬間だけは良かったという“一発屋”みたいな選手が多い。男子と女子は違うと言っても、これだけの差があるというのはやはり何かしら原因があるのではないでしょうか。
女性は痩せにくく、食べても男子のように筋肉にならないというのは、私からしたら訳の分からない話。だったら練習方法を変えたらいいだけの話です。指導者たちは長く競技を続けて、結果を積み重ねていくことよりも瞬間的な成績が出ればいいと思っている気がします」
「生理が止まって良かったことなんてひとつもない」
実際、現在の新谷の身体は他の女子選手とは全く違う。ただ細い選手が多いなか、足はもちろん、背中から腕、肩まで、美しい筋肉がついていて、まるで外国人選手のような身体なのだ。
身体だけではない。昨年1月にハーフマラソンの日本記録を樹立すると、11月に行われた日本女子駅伝の最高峰、クイーンズ駅伝では3区10.9kmの区間記録を1分10秒も更新。その翌月の12月の日本選手権では3位以下の選手をすべて周回遅れにして、日本新記録を叩き出した。圧倒的強さを見せているが、食事制限はしていないし、生理もある。
「結果を出さないといけない世界ですから、正直、生理を二の次にする選手の気持ちも理解できます。だけど若い選手ほど認識が甘くて、結局、生理がなくても病院に行けばどうにかなる、体重が戻れば、スポーツをやめれば生理が来ると思っているんです。私もそういうところがありました。でも10代の時は選択肢が100あっても、20代になると70になって、30代になると50に減っている。年々選択肢が減ってきて、改善できる手段がなくなっていき、気づいてから慌てても遅いんです」
もちろん選手である以上、勝ちたいと思う気持ちは理解できる。だが無月経の影響は生涯にわたり続く危険があり、新谷は「生理が止まって良かったことなんてひとつもない」と断言する。
「正しい知識をつけずに流れ作業のように、競技や食事をしている選手も多い気がします。例えば、炭水化物を抜けば、夜少しぐらいお菓子を食べてもいいよねという子がたまにいるんです。練習で内臓が疲労困憊しているところに、胃が疲れるような食べ物を取ったら、次の日しっかり練習ができるわけがないんですよ。たまにお菓子やファーストフードを食べるぐらいならいいのですが、食べるタイミングや量をきちんと考えないといけない」