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“60代から100歳近い男女が雑魚寝”“汚物の臭気が部屋に充満” 劣悪な介護現場の実態に迫る

『ルポ 老人地獄』より #1

source : 文春新書

genre : ライフ, 読書, 医療, ライフスタイル, 社会

安さで顧客を集める

 実は最近、定員10名までの小規模デイサービスの事業者が、こうした「お泊まりデイ」と呼ばれるサービスをする例が急増している。

 なぜ、小規模事業者によるお泊まりデイが急増したのか。

 まず厚生労働省が、高齢者の自宅に近い場所でデイサービスが展開できるよう、小規模事業者を優遇したという経緯がある。例えば、1人で立ったり歩いたりができない「要介護3」の高齢者が1日利用すると、1万1000円余りが施設の収入となる。この単価は定員10人を超える通常のデイサービスより2割近く高い。毎日平均で9人の高齢者を預かったとすると、単純計算で月に約300万円が事業者の収入となる。家賃や人件費を差し引いたとしても、儲かるビジネスと言っていいだろう。ただし、15年度から、小規模デイサービスの優遇は縮小された。

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 厚労省によると、13年度までの7年間に通常のデイサービスが約5000カ所増えたのに対し、小規模は約1万1000カ所も増えた。

 都市部では、空き家になるような古い一軒家を利用しやすいこともあり、お泊まりデイが台風の目のように急激に伸びてきた。最大手は、日本介護福祉グループ(本社・東京都墨田区)がフランチャイズ展開する「茶話本舗」で、14年11月現在で直営店、加盟店などは全国に約800事業所にのぼる。日本介護事業(本社・東京都墨田区)が展開する「だんらんの家」も、フランチャイズで全国に約300事業所を展開する。

 茶話本舗の加盟店で働く介護職員が、お泊りデイが人気を集める理由を語る。

特養の入居待ちは50万人以上

「昼間のデイサービスは儲かりますが、今はそれだけでは客を集められません。お泊まりには、昼の利用者を確保するための“付録”としての効果があるんです。安い特養はいつ入居できるかわからないし、民間の有料老人ホームに親を預けることができるのは、金銭的に余裕のある家庭だけです」

 介護を必要とする高齢者向け施設で人気が高いのが、公的な介護施設である特別養護老人ホーム(特養)だ。対象は原則65歳以上で、自宅での生活が困難になった人。利用者は、要介護度別に決められた費用の1割を負担するのに加え、居住費、食費などを含めても、所得に応じて月に数万~十数万円で済む。特養には建設の時などに税金が投入され、介護保険からの給付も、一般の有料老人ホームより手厚いためだ。

 ところが特養にはなかなか入れない。全国に約8000施設、定員約50万人とされるが、入居待ちをしている人も50万人を超えている(14年3月厚労省調べ)。15年4月からは、原則として「要介護3」(排せつや身の回りの世話が自分ひとりではできない)以上にならないと受け入れなくなり、ますます入りづらくなった。