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“60代から100歳近い男女が雑魚寝”“汚物の臭気が部屋に充満” 劣悪な介護現場の実態に迫る

『ルポ 老人地獄』より #1

source : 文春新書

genre : ライフ, 読書, 医療, ライフスタイル, 社会

note

日本の老後の生活はこんなに貧しいものなのか

 いくら部屋を3つつなげても10人が寝るには狭い。部屋に入ると、右手の足元に寝ている老人の頭があった。左手には食卓テーブルがあって職員が電気スタンドで手元を照らしながら書類に記録をつけている。日中は食事をしたりテレビを見たりする場所だ。そのテーブルの奥にも簡易ベッドが1台あり、布団も2枚敷いてある。天井や壁には、洗濯したタオルが吊るされ、壁にはコートやジャンパーが無造作にかかっていた。

 この介護サービス会社は、埼玉県には「寝床の間に仕切りを置く」と届け出ている。だが、「夜中にトイレに起きた時に邪魔になる」「倒れるとかえって危険」などの理由で、実際には仕切りはない。また、「男女別室に配慮する」とも届けているが、大部屋なのでそれどころではない。

 老人たちは夕食を午後6時にとり、6時半には歯磨きをすませる。7時ぐらいには床に就く人もいる。夜勤の職員は1人で、2時間おきに様子を見る。9時、11時にはトイレに行く人がいるが、12時を過ぎるとそれも少なくなる。起床は6時で、朝食は7時と、規則正しい生活だが、すし詰めの団体生活でストレスはたまらないのだろうか。

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 こんな環境だが、中にはずっと泊り続けている老人もいる。1カ月泊まって食事をすると、介護保険の自己負担を含めて月に10万円以上というが、国民年金は満額でも月に6万5000円程度しか出ない。10万円を出すことができる老人は、比較的お金を出すことができる人たちともいえる。日本の老後の生活はこんなに貧しいものなのか。医療にしても、介護にしても、老人の負担は増える一方だ。自分が老人になった時にはもっと酷い環境で暮らすことになりかねない。暗然とした気持ちになって施設を後にした。

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介護保険の不正請求も

 デイサービスは、介護保険の請求が認められるサービスだが、保険から支払いが受けられるのは昼のサービスだけで、お泊まりサービスは対象外だ。民家は小さいため、昼に提供されるデイサービス施設としては小規模型デイサービスが多くなる。小規模の場合、介護保険が適用される日中の利用者は10人が上限とされている。

 そのままお泊まりサービスとして使うにしても、本来なら10人が上限だ。しかし、私たちが取材した日の昼間は、11人が利用していた。そのうち1人だけが家に帰り、10人が泊まった。取材した日は週末の夜だった。週末は、昼の利用者が10人を超えることが多く、宿泊者も10人近くなる。介護をしている家族も、週末ぐらいはゆっくりしたいと考えるためだろう。

 しかし、日中のデイサービスの介護保険への請求は10人までしか認められない。そのためこの施設の経営者は、10人を超える利用者があった日は、超えた分の人が別の日に利用したことにして請求していた。のちにこの施設は埼玉県の監査で保険請求の不正な操作を指摘され、約1年分の介護報酬の3割を返還するよう命じられた。