200キロ超の体重で3メートルの高さまで跳躍
トラは普通、ゾウを襲わないというが、その上に乗っている人間は別だ。現地で聞いた話では、昔、ゾウに乗っていたマハラジャが、トラを追い詰め、ライフルを構えた次の瞬間、トラはゾウに向かって走ったかと思うと、マハラジャの上を跳び越え、悠然と立ち去っていた。マハラジャはトラに頭を叩かれ、首の骨が折れて亡くなっていたという。僕たちの身近にいるネコは、体長30センチほどで1メートル以上跳び上がることができる。体の3倍の高さだ。
トラの体長は2メートルほど。本気を出せば3メートルは跳べるはずだ。200キロを超える大型力士ほどの体重がありながら、3メートルの高さまで跳び上がるジャンプ力があるトラは、桁外れの身体能力の持ち主なのだ。
世界で最も有名なトラ
我に返ったとき、僕は傷一つ負っていなかった。おそらく、チャージャーにしてみれば、休息中に追いかけ回されて鬱陶しくなり、ちょっと脅かして引き下がらせてやれという程度だったのだろう。もし本気だったらと思うと、今でもゾッとする。クタパンさんは、いつものことだ、という顔をしていた。
我に返った僕がクタパンさんに真っ先に言った言葉は、「チャージャーはどこに行った?」だった。
すると、彼は山の方を指差して、とっくに上の方に逃げていったという。僕には信じられなかった。たった今、目の前にいたチャージャーが、一瞬にして山を駆け上がるわけがない。半信半疑で山の上まで行ってみると、果たしてチャージャーはそこにいた。しかも、ゆったりと毛づくろいをしながら寝そべっていた。どう見ても、たった今、たどり着いた感じではない。
おそらく僕は、5秒から10秒ぐらい気を失っていたのだろう。もう30年以上、世界中で生きものを追い続けているが、あれほどの恐怖を味わったのは、後にも先にもない。
その後、チャージャーは、世界的な雑誌「ナショナル・ジオグラフィック」で大々的に取り上げられ、各国のテレビクルーによって撮影され、世界で最も有名なトラとなった。バンダウガル国立公園で、最も支配的で伝説的な生涯を送ったチャージャーは、次のオスにその地位を追われ、2000年9月、17年という野生のトラとしては異例に長い生涯を閉じたという。
シータと4匹の子どもの姿は、その後、まったく見ることができないまま、撮影の最終日を迎えた。午前中、シータと子どもの足跡は発見したのだが、岩山に阻まれ追いきれないうちに日が高くなり、引き上げざるを得なくなった。
しかし、どうしても子どもを撮影したい。夕方、最後だからと頼み込んでゾウを出してもらい、祈る思いで出発した。