390円だから、お店の名前は「サンキューバナナ」
3人は、すぐにパソコンを開いてエクセルで収支を計算。状況を考えると、民家を借りたオフィスは道路に面していて、そこのカウンターを売り場にすればいい。バナナ、ミルクの原材料を仕入れ、あとは手元にある家庭用のミキサー、冷蔵庫でやっていけば、「1日、10杯~20杯ぐらいの売り上げでやっていけるのかも」で合意した。磯石さんは、他店の設定価格を参考に「1杯500円」と思ったが、清水さんが「毎日飲んでもらえるジュースにしたいから390円でどう? 390円だから、名前はサンキューバナナで」と提案。その場で価格、商品名が決まった。
清水さんは、翌日から開店に向けて精力的に動いた。「保健所に届けを出したり、いろんな手続きをしました。私は前職からデザインの仕事をやってきたので、バナナの形を100本以上描いて、そのうちの1本をロゴに決めました。あとは、入手したバナナを家の中でどの位置に置いておけば、熟成度が高くなるかも研究しました。裕子が留守の間にカーテンレールの上、床、窓際などで試したのですが、カーテンレールの上が最も傷まずに熟成すると分かりました(笑)」
オープン当日の売り上げは、8時間で1杯だけ
そして、店は4月21日にオープン。初日の客は1人で、売り上げは1杯の390円だった。その日の店番は清水さんで、「犬の散歩をしていた40代ぐらいの男性でした。『何してんの?』と言われ、『今日、オープンしました』『えっ、今日かいな。じゃあ1つ』って感じで。結局、営業8時間で1杯だけでしたが、最初に買っていただいた時の喜びは一生忘れられません」と振り返る。
人通りが少ない日々は続いたが、次第に近隣の住民らが来店するようになった。店前を犬の散歩コースにする人たちは、京都御苑の苑内で休憩するのが定番。誰かが「サンキューバナナ」を手にしていると、「それは?」と聞かれ、「最近、近くでできた店で売っている」「ちょっと、クセになる味」などの会話がされるようになった。状況を察した清水さんは、犬を連れた来客者の特徴と犬の名前をメモ。リピート客に気づくと犬に向かって「〇〇ちゃ~ん」と声を掛けた。そうした触れ合いもあり、「サンキューバナナ」のファンは増。「クセになる味やな」と言って、毎日来店する生花店勤務の男性、「お客さんが来たから、このお盆に4つ置いて」と注文する高齢女性、ステイホームに飽きた小学生…と客層も幅広くなっていった。