文春オンライン

内臓や筋肉を食い荒らすウジ虫が皮膚の下でボコボコと動き…鑑識官が目にする「孤立死」の悲惨な実態

『老人たちの裏社会』より #2

2021/04/20

genre : ニュース, 社会

note

防塵マスクをしていても、鼻をかむと真っ黒な鼻汁が

 数々の現場では必ず防塵マスクをして臨んだが、帰宅後に鼻をかむと決まって真っ黒な鼻汁が出てくる。これがまたとても臭い。加えて、何度風呂に入っても数日間は“あの臭い”が抜けない。食事をするときもすべてが“あの臭い”に侵されてしまう。

 後で知ったが、鼻腔の奥の窪くぼみに現場のホコリで生成された「臭い玉」のような物体が居残るのだ。これが鼻の中にずっと居座るため、数日後に鼻をかんだ際にようやく外に出てくるまでは、いつまでも臭いに悩まされることになるのだった。

 若手の鑑識官のなかには「現場がトラウマになって転属願を出したり、退職したりする者もいる」(前出・鑑識官)というのも、無理のないことだと思わざるを得ない。

ADVERTISEMENT

©iStock.com

幼少時に数回会っただけの叔父の遺体を引き取る

 ではここで、孤立死が発見されてからの一連の流れを簡単に辿ってみよう。

 まず、通報を受けた警察の現場検証が行われる。遺体の外傷を確認し、直腸温度を計って大まかな死亡時刻を暫定した後で、亡骸はいったん、警察署へ搬送される。親族や身元保証人には、この前後で連絡が取られ、医師による検案と必要に応じて解剖が行われた後は、明らかに事件性のある場合を除き、遺体は遺族の引き取りとなる。引き取り拒否や引受人不在の場合では福祉事務所等、市区町村での行政扱いとなるが、いずれの場合も処遇が決まるまでの間は、葬儀業者の保冷庫で保管されることが多い。

 故人が単身者の場合では、相続の対象となる甥や姪が一報を受けるケースも少なくない。

「最初は誰のことか全くわかりませんでした」と、5年前に叔父の訃報を受けた埼玉在住の48歳主婦が回顧する。

「突然、大阪府警から『○○さんが亡くなったので遺体を引き取ってほしい』と電話がかかってきたんです。まるで覚えがなく、十数分の押し問答の末、ようやく亡き父の音信不通になっていた弟だとわかりました」