「ピンクの綿アメ1個が随分と高くついた」
血縁とはいえ、大阪に住んでいた幼少時に数回会った記憶しかない。
「写真もなく、顔も思い出せない。唯一の思い出は縁日で妹と一緒に綿アメを買ってもらったことだけ。母は特養施設に入居中で相談できる状態になく、夫と話し合って私が引き取りに行くことにしました」
大阪へ出向いて亡き叔父と対面し、早々に火葬した後は、居住アパートの片付けと清掃を業者へ委託して諸手続を済ませた。その後、埼玉へ戻って亡父の墓に遺骨を埋葬した頃には「すでに100万円を超す出費になっていました。見過ごせなかったとはいえ、叔父に遺産はなく、実のところ『降って湧いた災難』の心境でした。幸い、死後2日で発見されたため室内の汚れが少なく、清掃費用が低く済んだのがせめてもの救い。ピンクの綿アメ1個が随分と高くついたものです」と苦笑した。
引き取る場合は火葬までに最低でも30万円
福祉葬を多く手がけ、直葬の専門ブランド「ダビアス」を展開する葬儀社「神奈川こすもす」の清水宏明代表が打ち明ける。
「搬送費用や保管料等を含め、引き取る場合は火葬までに最低でも30万円は必要です。これに遺品処理や納骨での費用も加わるため、『気持ちはあっても経済的に引き取れない、引き取りたくない』という遺族も大変多い。近年、火葬だけで送る“直葬”が増えている要因の一つでもあり、たとえ血縁であっても、関係が密でなければ知人以下の扱いとされるのが偽りのない現実なのです」
近年、親きょうだいとも縁が切れて“無縁”化する実態について、高齢者の身元保証と生活支援を行うNPO法人「きずなの会」の杉浦秀子・東京事務所所長(当時。現「一般社団法人フェリーチェ結う」代表)が指摘する。
「身内から見放されている人は、それなりの経緯があってかかわりを拒否されている場合が多いのです。たとえ今は好々爺でも、過去に金銭トラブルや暴力、浮気などいろいろな諍いさかいを起こしているケースも少なくありません。また、親の遺産相続でもめて、きょうだいが疎遠になる中高年は相当数にのぼります。さらに、賃貸住宅や施設入居の保証人を依頼して断られると、その瞬間に縁も絆も切れてしまう。一度亀裂が入ると、他人でないだけに妥協して譲り合えず、関係修復は不可能となって、血縁がいてもいないのと同じ状態に陥るのです」
「血の繋がり=頼みの綱」にはならない
今や必ずしも“血の繋がり=頼みの綱”にはならない。核家族化が進み、親戚付き合いも「煩わしい」と疎遠になりがちなご時世で、住まいすら世界規模で点在化している。
前出の清水氏が続ける。
「いくら関係が良好でも、血縁者が遠方にいたり、かかわりのある人が近くにいなければ、誰でも孤立する可能性があります。孤立死に関しては、周囲にどれだけ『人がいるか』ではなく『縁を築けているか』がポイントで、住まいの大小も、貧富も関係ありません」